B 小学校の実践3
  ここでは,「SOSチェックリスト( 石隈利紀著「学校心理学」より)」やアンケート調査などを活用して発見した,配慮を必要とする児童についての,援助チームによる実践の事例を示す。
 配慮を必要とする児童について
  A子(第4学年女子)
  •  家族構成:父,母,兄(中3,本人,妹(小3,弟))
  •  両親は自宅と違う場所を借りて自営業を営んでいるため昼夜忙しく,食事やその支度,家庭生活の大部分の時間を子どもだけで過ごすことが多い。
  •  学習用具や宿題の忘れが多く,授業中の挙手や笑顔が減少しており,頭痛や体の痛みなどの体調不良を訴えることが目立つ。
 
(ア)結成のきっかけ
  学級で実施した「SOSチェックリスト」による状況把握やアンケート調査から,心配な児童としてA子が見つかった。担任から相談を受けた教育相談係が,チームを編成して複数の目で見守り,援助していくことを提案すると,担任も賛同した。
(イ)援助コーディネーション委員会に代わって
  全職員による打ち合わせ後に月に1〜2度実施される学級ごとの気にな,「る児童についての報告・検討会」において話し合った。進行は生徒指導主事が担当した。
まず,担任がA子について報告した後,教育相談係から援助チームをつくって取り組むことを提案し,全体で承認された。三次的援助サービスの事例について援助チームで取り組んだ経験があったため,学校長をはじめ,他の先生方からの賛成を得やすかったと思われる。
この場で援助チームのメンバーが決まり,会議後,教務主任から第1回目の援助チーム会議の日時が伝えられた。
(ウ)援助チーム会議のメンバー
   教育相談係,養護教諭,担任と,A子が所属する音楽クラブの担当でもあり,妹の担任でもあるB教諭というメンバーで行うことにした。
 援助チームによる予防的な指導・援助の実際
  (ア)援助チーム会議の進め方
    本事例は,本校において,二次的援助サービスとしては初めて援助チームで取り組んだ事例である。司会進行役を教育相談係が務め,三次的援助サービスとしての援助チーム会議の場合と同様に,援助チームシート(表4)や援助資源チェックシート(図5)を活用しながら,援助案を作成していった。話合いの中では,A子の自助資源に注目していけるように心がけた。また,家庭についても援助資源になり得る可能性を忘れず,肯定的に考えていくように努めた。
  (イ)話合いの実際
    主に担任からA子についての情報が述べられた。「S0Sチェックリスト」 と学校生活についてのアンケート調査の結果は以下のようであった。
 「S0Sチェックリスト」の中では,@学習面の7項目中「勉強の道具の忘れ物が最近増えていないか」など4項目に,A心理・社会面の8項目中では「自分に対して否定的なイメージをもつようになっていないか」などの4項目に,C健康面の4項目中では「頭痛や腹痛の訴えが続いていないか」に,D学校生活,家庭生活全般の3項目中では「不規則な生活を送っていないか」に該当し,全体では,25項目中10項目に該当していた。
 また,アンケートからは,おおむね学校生活には満足しており,クラスについても肯定的なイメージをもっていること,自分が疎外されているとは思っていないことが分かった。しかし,クラスの人から好かれている,仲間だと思われているといった自己肯定感については低いことも分かった。
 家庭については,経済的な問題もあり,両親とも忙しく時間的にも不規則な状況が続いていること,援助資源としての積極的な協力を得られにくいということが報告された。しかし,現時点では協力を得られなくても,今後母親は援助資源として大きな力になる可能性をもっているという,肯定的なとらえ方をしていこうということが話合いの中で確認された。
 また,兄や妹も重要な援助資源になるのではないかという提案があり,検討された。兄のことを知っている養護教諭や教育相談係との会話の中では,A子は兄のことを話題にすることも多いという情報も出された。
 頭痛や体の痛み,体調不良などを訴えることはあるが,1学期よりも2学期,3学期の方が減少しているという事実も,援助チームシートを用いて情報を整理していく中で明確になっていった。
 話合いの結果,この時点における援助方針を以下のように立てた。
  • 学習面での積極性や自信を育てる。
  • 友人関係,兄妹関係の中での精神的な安定を図る。
  • 健康を維持できるようにする。
  (ウ)指導・援助の実際(第1回援助チーム会議〜第2回)
 経過とその後の援助活動について
   A子は,社会科や総合的な学習の時間の中で生き生きと活動する様子が見られた。「沖縄について調べる」という学習は,母親が沖縄の出身であり,A子自身も夏休みに訪れた経験があることから,A子が学習への意欲や自信を取り戻すには最適な題材であった。また,沖縄について母親から取材することを通して,母親とのふれあいも増えていった。学校行事には,ほとんど参加しない母親であったが,やはり大きな援助資源となった。また,兄について話題にすると,特に嬉しそうに反応し,自分から様子を伝えてくることも増えた。援助資源としての兄の存在も大きいと思われる。
 A子は,前年度の3学期に比べ,体育などの見学が減り,けが以外の体調不良やかぜによる欠席も減っていた。まだ,時折硬い表情も見られるが,自分から友達へかかわる場面も増えてきたので,援助案による援助を続けていくことにした。
 援助実践を振り返って
   A子は,学級集団の中ではわがままを言ったり,人に迷惑をかけたりすることもないため,三次的援助サービスを必要とする児童たちのように目立つことがなく,教師側からは見落としてしまう可能性がある児童である。しかし,毎日接していると,何か気になる。その漠然とした感じを,アンケートや「SOSチェックリスト」により明確にすることができた。
 実態や情報を具体的に把握し,児童理解が深まると,必要な援助が見えてくる。アンケートや「SOSチェックリスト」の結果から得た「気になるところ」の情報と援助チームで複数のメンバーから得た情報を総合し,援助チームシートを用いて整理していくと,A子に必要な援助だけでなくよい点や可能性にも気付いていくことができた。

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