【授業研究1】 中学校第2学年 生きた英語を活用した発展的学習Job Interview
(1)  授業の構想
  中学校における授業研究では,研究主題にかかわる実態調査等の検討及び昨年度の課題を考慮した上で,生徒が生きた英語に触れられる機会を授業に取り入れながら,具体的な言語の使用場面を踏まえたコミュニケーション活動を展開したいと考えた。
 1年目の研究では「インタビュー」,「友達紹介」という具体的な場面設定をし,既習の表現を自分の言葉として使わせることによって,コミュニケーションを図ろうとする意欲が高まり,実践的コミュニケーション能力の育成につながる手応えが感じられた。今年度は,教科書を用いた指導の基礎の上に,発展学習として本題材を設定した。これまでに,教科書のProgram 5 A Birthday Present では人と人との触れあいの大切さについて,Program 6 Kumi Sends a Present では応対の仕方について学んでいる。合わせて,第2学年では「総合的な学習の時間」の中で自分の生き方について学び,さらに,職場体験学習も実施した。このような生徒の学習や体験を生かし,本題材Job Interview の場面では,既習の表現を活用しながら,自分自身のことを自分の言葉で伝えられるようにすることを目標にしたいと考えた。なお,1学期より,授業の中では「5分間英会話」と称して,教科書の基本文を基にした簡単なコミュニケーション活動を継続して行ってきた。本時の活動への動機付けやその下地としての意味は大きいと考える。
(2)  授業の手だて
 生きた英語に触れさせる手だて
 実態調査の結果によると,生徒は外国人指導助手の,英語を母語とする話者としての特色を生かしたり,生きた英語に触れられるような教材を授業に取り入れることを望んでいる。今回の授業研究では,外国語指導助手とのティーム・ティーチングを行うこととし,生徒とのコミュニケーション活動の手段としてできるだけ英語を使用し,メッセージを生徒に伝えたり,生徒の発するメッセージを受け止めたりする場を設定し,外国語指導助手の生きた英語にできるだけ触れられるようにする。
 コミュニケーション活動の場面については,10年後,日本の雇用状況が大きく変化する中で,海外で求職しなければならない状況になっているという設定にした。就職状況は厳しく,自分自身をアピールすることが重要だということを意識させる。事業所の設定については,生徒が職場体験学習で実際に訪問した所,生徒へのアンケート調査で希望の多かった所,インターネットで調べた所など七つを設定する。実際の就職ということを考えれば,複数箇所を受ける場合は同じような系列の会社にしぼられると思うが,本実践では中学生の興味・関心や学習に幅をもたせることなどを考えた上で決定する。事業所名については外国語指導助手の協力を得て,実際にアメリカにある会社や商店などの名前を参考にし,現実味をもたせたいと考えた。
 具体的な活動内容は,生徒が面接官役(2人組)と応募者役(個人)に分かれ,仕事探しのための面接を受けるという設定にした。日本人英語教師は生徒の活動状況を把握し, 面接を積極的に受けるように勧めたり,面接が滞らないようにするなどの支援をする。外国語指導助手は就職アドバイザーとして生徒の就職斡旋,面接のための練習等を行い,英語で表現することに自信をもたせたり,活動への意欲を高めたりするような役割を担う。
 この他,生きた英語に触れられる教材として,映画“Music of the Heart”の就職面接シーンの視聴により状況を把握させたり,インターネットから得た求人情報を基に,実際のアメリカの企業の就職条件や資格等について理解を深めさせたい。未習の言語材料が多く含まれると思うが,資料提示の工夫や外国語指導助手の協力を得ることで,生徒が興味・関心を高められるように配慮する。
 語彙や表現の指導
 生徒向けの実態調査結果から,生徒が,英語でのコミュニケーション活動をする際に,必要となる単語・語句・文法の事前指導を望んでいることが分かった。そこで,活動に必要と思われる語彙や表現をリストアップしたものを前もって生徒に配布し,事前に練習の機会を与え,活動がスムーズに進むようにしたいと考える。また,会話が円滑に継続できるようにするためには,“Pardon me?”,“I see.”等の表現が大切であることも指導してきた。具体的に面接試験でなされる質問項目については,実際の面接試験に近い質問と, 生徒向けに平易にしたものの2種類を作成した。最初から平易なものだけを与えるのでなく,現実に使われる質問を先に生徒に提示し,何の職業についての面接なのかを推測させる等,本物の感触を味わわせたいと考えている。
 外国語指導助手には母国アメリカにおける就職面接の様子や実際の就職面接でされる質問等について情報の提供を依頼する。さらに,それらの情報から,生徒に,本物に近い就職面接の質問事項を紹介する。現実に即した表現方法として,たとえば,“What's your name?”よりは,“May I have your name?”の方がふさわしいことなどを理解をさせる。
 評価について
 評価の方法としては,次の三つを考えている。第一は,相互評価で,活動の中で面接官は応募者に10項目程度の質問をし,それぞれの返答が仕事に適していると判断したら,項目毎に得点を与える。また,それぞれのよさをとらえて記録しておくことも奨励する。得点の合計が基準以上になった場合は採用とし,授業の最後に面接官がよかった点を述べながら採用を伝えるカードを与える。第二には,全員による自己評価である。観点は共通する5項目と自分自身で設定しためあてとする。これらは3段階評価とし,他に自由記述式で反省や感想を書くようにする。第三には,日本人英語教師と外国語指導助手による評価である。授業の終末部で講評するとともに,授業終了後に各生徒の活動状況と授業の成果について意見交換をする。
(3)  学習指導案
 題材  Job Interview(発展的学習)
 時間配当  6時間(本時は第6時)
第1次 就職面接の概要を理解する。   ---------- 3時間
第1時 アメリカでの就職面接の状況を理解する。(外国語指導助手の話,映画,インターネットからの資料等)
第2時 役割分担とパンフレット作りをする。
第3時 英文履歴書を作成する。
第2次 就職面接の模擬体験をする。   ---------- 3時間
第1時 面接官は面接試験用の質問作成をする。
第2時 役割ごとに面接の練習をする。
第3時 就職面接の模擬体験をする。(本時)
 本時の学習
(ア)  目 標
就職面接の場面において,面接官は応募者に質問し,その返答を聞いて理解した上で, その良い点を言うことができる。応募者は自分自身のことについて積極的にアピールをすることができる。
相手の言うことが理解できない場合でも,聞き返す,繰り返しを求めるなどの表現を活用することができる。
(イ)  展 開

JTEは日本人英語教師,ALTは外国語指導助手,*は評価の観点,・は支援内容を表す。
(4)  授業についての考察
 生きた英語に触れさせる手だてについて
 この研究では生きた英語に触れられる教材をいかに教科書の内容と関連性をもたせ,どのように生徒達のコミュニケーション活動へつなげるかが実践上の課題であった。
 映画の就職面接の視聴では英語に関心の薄い生徒でさえも,関心をもって視聴する姿が見られた。就職面接の活動についての感想では,数名の生徒が「本当の面接をしている気分になった。」と書いていたが,映画を視聴したことにより実際の面接がどのようなものかイメージをもてたのではないかと考える。また,インターネットの求人情報は,ディズニーランドやレストラン等について手を加えない生のままの情報で与えたが,未習の語が多いにも関わらず推測しながら読みとる姿が見られた。実施後のアンケートにおいても8割以上の生徒が,就職面接の様子や求人状況が分かり参考になったという感想をもった。さらに,パンフレット,雑誌,新聞などを利用して学習をしてみたいという意見もあり,実際に使われている言語への理解をさらに深めたいという気持ちが表れていた。
 本授業では外国語指導助手が就職アドバイザーとなり生徒と一対一の会話ができるような場面を設定した。授業では10名程の生徒がアドバイスを受けに来ていた。生徒の中には就職面接を受ける勇気がなく,活動開始後すぐに外国語指導助手と面接練習をした者もいたが,次第に自信をもち「もっと早い時間から面接を受ければ良かった。」という感想も見られた。外国語指導助手が根気強く丁寧に指導をしており,英語を苦手とする生徒であっても,あまり難しさや恥ずかしさを感じないで活動ができたようである。
 これらのことにより,題材に関連性をもたせながら生きた英語に触れられる教材を活用することは生徒の学習意欲を高め,コミュニケーション活動を活発にする効果があると考えられる。
 事前の語彙や表現の指導について
 生徒達はこれまでに学んだ表現を自分の役割の中で精一杯使おうと,非常に生き生きと意欲的に活動していた。しかし,反省点として,練習した範囲のやりとりのみに終始してしまい,発展が難しい様子も見られた。面接官がどのような質問をするかにより話題が決まるので,一問一答でなく,話題に関連した質問が自由な発想からより多く出るようになれば,コミュニケーション活動もさらに活発になったのではないかと思う。そのためには, 言語材料についてよく理解させ,生徒個人の発想を生かした活動を普段から行うことが不可欠であると考えられる。
 生徒の評価について
 授業終了時に生徒達が書いた評価カードによると,外国語指導助手が活動の重点目標として挙げたSmile, Loud Voice, Confidenceについては,8〜9割の生徒がよくできたと自己評価をしている。面接官側でもほぼ同じような評価であった。ただし,3項目の中ではConfidenceについての評価は他に比べて少し低かった。どの生徒も一生懸命に取り組んだ様子はうかがえるが,自信をもつことの難しさが表れていた。英語の授業に限らず,いろいろな場面や機会をとらえて指導をすることが必要であろう。次に,「応募者は積極的に自分を売り込むことができたか。」の項目では,応募者全員が「できた。」と答えている。結果的には応募者の3割近くは不採用になってはいるが,それぞれが努力をしたという点では満足していた。“Do you have a license?”と聞かれ,“No.”と答えても,“But I want to get the license.”と前向きの考えを述べ,意欲を見せていた。面接官は「応募者の考えが理解できたか。」という質問には,ほぼ全員が理解できたと答えている。また,応募者の返事に対して“Really?”や“I see.”で受け答える様子も見られた。感想には,「達成感があった。」,「またやりたい。」,「楽しかった。」,「ジェスチャーを使って話ができた。」と肯定的に書いてあるものが多かった。よかった理由としては,「1年生の復習になった。」,「教科書以外の言葉が覚えられて良かった。」,「本格的な英会話ができた。」という英語学習についてのものや,「インタビューのマナーが分かって,とてもためになった。」という面接そのものについてのものもあった。全体的にかなり充実感と達成感を感じられたようである。
(5)  まとめ
 本題材の授業では,教科書を用いた指導の基礎の上に,「総合的な学習の時間」の中で取り組んできた自分の生き方についての学習と関連づけ,就職面接という具体的な場面を設定してコミュニケーション活動を実施した。実際の情報を教材に取り入れたり,外国語指導助手の特色を生かすことで,生徒には生き生きとコミュニケーション活動に取り組ませることができた。就職面接の場面では既習の表現を取り入れた様々な活動が要求されるが,これまでにメッセージのやりとりを意図して継続的な授業を展開してきたことが,コミュニケーション能力の育成につながったと思われる。
教科書
生きた英語に触れる
使用場面を踏まえたコミュニケーション活動
という指導は,生徒が教室での学習から離れて実社会で使われる言語に対処できるようにするための準備のひとつである。そのような具体的な体験や活動を重視する学習活動を実施することは,興味・関心,表現力などを高めるだけでなく,自ら学び自ら考える力を育てていくことにつながるものであると考えられる。

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