【授業研究2】
   中学校第1学年 課題学習「関数 歩いてグラフをえがこう」
 
(1)  授業の構想
  図1 本研究のねらいは「自ら学び,自ら考える力を育てる学習指導」である。「数学的活動の楽 しさを味わう数学科学習の指導の在り方」を数学科主題として研究を進めるために,「歩いて グラフを描く」という課題学習を設定した。
 授業に関する事前調査(平成12年10月25日実施 水戸市立第二中学校第1学年5組30人)では,グラフ電卓とCBR(距離センサー)を使って「比例,一直線,山型のグラフをどのようにしてできるか」という質問で「分かる」とした生徒は25人であった。回答にはグラフの描き方については理解しているが,時間と距離の関係については意識されていない傾向があることが分かった。学習に関する調査(平成12年10月20日実施 水戸市立第二中学校第1学年5組31人)では,「日常の生活において,伴って変わる二つの関係を見いだすことが重要である。」と考えている生徒は15人であった。さらに,伴って変わる二つの関係を表す方法には,どんな方法があるか」いう質問では,式で表すという生徒は17 人,グラフで表すという生徒は10人,表で表すという生徒は10人(複数回答)であった。
 このことから,伴って変わる二つの量を表,式,グラフを用いて表すことは理解しているが,式に表すことが強調され,グラフから波形の意味やグラフのもつイメージを想像していないことが分かる。これは,日常での実体験が足りないからであると考える。これらの結果からグラフ電卓(TIー92)と距離センサー(以下CBR)を用いて,グループで話し合ったり考えたりしながら,実験や観察することで,伴って変わる二つの量を調べる活動になると考えた。
(2)  指導の手だて
   単元について
     数量関係については,小学校では,第6学年で数量関係についての見方をまとめるために,伴って変わる二つの数量の中から,特に比例関係にあるものを中心に考察し,関数の基礎を学習してきた。中学校第1学年では,具体的な事象の中にある二つの数量の変化や対応を調べることを通して,比例,反比例の関係を見いだし,表現したり考察したりすることを学習する。これらの学習を通して本課題学習では身体の動きとグラフ電卓・CBRを学習に取り入れることで「具体的な事象の中にある二つの数量の変化や対応を調べることを通して,関数の関係を見いだし表現し考察する能力を伸ばす。」ことを目標ととらえた。
   指導に当たって
    (ア)  数学的活動の楽しさを味わうために
       課題学習について,中学校学習指導要領(平成10年12月)では,「生徒の主体的な学習を促し数学的な見方や考え方の育成を図るため,各領域の内容を総合したり日常の事象を関連付けたりした適切な課題を設け,作業,観察,実験,調査などの活動を重視して行う課題学習を各学年で指導計画に適切に位置付け実施するものとする。」とある。また,中学校学習指導要領解説数学編(平成11年9月)には,「教具としてのコンピュータの活用」において「生徒自身が学習したり,数学的活動を楽しくする道具として考えたい。」とある。
 数量関係の指導では,代数的に解く机上での指導が中心であった。本課題学習では,グラフ電卓とCBRを活用して,歩くという身体の動きから時間と距離の関係をとらえ,グラフとして表示する。ゆっくり歩いたり早く歩いたり,立ち止まったりするなどの動きをグラフ化することで,時間と距離の関係を考えていく。身体や身体の一部を動かして考えるような外的行為は内的行為を誘発し,数学的な考え方が深まり,関数的な思考の展開が起こると考える。自分の体を使った実験・観察などを踏まえ,二つの伴って変わる数量を学ぶ活動の楽しさを味わいながら学習を進めていきたいと考えた。
    (イ)  数学的活動の楽しさを味わうための支援と評価
       身体の動きをグラフに表現すること,グラフを予想して身体を動かすこと,グラフの意味をよむこと(直線やカーブになることの意味)などから,数学的活動の楽しさを味わい,時間と距離の関係に着目して,二量を関数としてとらえられるように学習を構成した。また,生徒の疑問,グラフ電卓操作上の支援や個に応じた指導ができるようにするためにティーム・ティーチング(以下,T・Tとする)による次のような支援を行った。導入では,T1とT2で歩いてグラフを作り,機械の操作という役割演技により,グラフに対する知的好奇心を高めるために実演を取り入れる。自力解決の場面では,事前に支援をする各グループを確認しておき,グラフ電卓の操作や活動の支援を行い,問題解決を積極的に進められるようにする。話合いの場面では,T1が主に話合いを進める。T2は,状況に応じて質問をしたり,自分の支援した生徒の補足説明をする。まとめの場面では,T1とT2がそれぞれ違った観点からまとめをする。手や体の動きで,いろいろなグラフができることやできたグラフからどんな数学的な見方や考え方がいえるかについてまとめる。数学的活動の楽しさを味わうために,自力解決の時間を十分に確保し,どのようなグラフを考え,どのような動きをしたかについてグループごとにまとめることができるようにする。
(3)  授業の展開
   課題学習(歩いてグラフを描く)
   学習計画(3時間 本時はその第2時)
   
学習内容 学    習    活    動
歩いてグラフを描く グラフ電卓でグラフをかいてみよう。
A 自分だけのグラフをつくろう。
自分のつくったグラフについて調べる。
   本時の目標
     グラフ電卓(TI‐92)とCBRを活用して,身体を使って,自分だけのグラフをつくろうとする。(関心・意欲・態度)
     手や身体を使って,自分だけのグラフをつくることができる。(数学的な方考え方)
   展開
記録
   
(4)  授業の記録
記録

資料1

(5)  授業の考察
  図2 検証授業後に図1と同様な事後調査を行った。この結果から,階段のグラフについて28人の生徒がグラフについて理解ができていた。比例,一直線,波形については直線の意味やカーブのもつ意味について数学的に表現できていた。図2は検証授業後の生徒の振り返りカードの結果である。
 この結果から授業の分析と考察を述べていく。
 図2のアは,23人の生徒が「とても楽しい」と評価をした。イは「とても・だいたい役立った」を合わせた評価の生徒が24人であった。2人の生徒が「あまり」と評価した。この生徒は,「グラフ電卓の操作が難しいから」と述べていた。多くの生徒が振り返りカードに記述していた内容は,手や体を使って学習したことが「理解に役だった」ということである。これらのことから,手や体を使ってグラフを描くような数学的活動の楽しさを味わう学習をすることが,自ら学び,自ら考える力を育てることになると考える。
   生徒の感想から
    資料2 感想欄に,単に「楽しかった」と書いている生徒がいたが,資料2などのように「自分の考えたグラフが予想通りにできたときはとても嬉しかった。また,友達のグラフや説明も理解に役だった。機会があればまたやりたい。」と振り返っている感想も多く得られた。このことから,グラフ電卓を活用した授業では,生徒は,数学的活動の楽しさを味わい,自ら学習してみようとする意欲や態度を示すことが分かった。
(6)  まとめと今後の課題
  授業の様子 グラフ電卓を活用し,手や身体を使ってグラフを描くという数学的活動の楽しさを味わう学習をした結果,問題を解決していく学習に意欲な取り組みがみられた。自分なりの考えを基にグラフを描くことで,生徒は時間と距離の関係をつかみ, グラフ,表,式の関係をとらえ,ともなって変わる2つの量について理解することができた。今後はグラフ電卓の活用方法をさらに工夫し,他の領域に生かして数学的活動の楽しさを味わい,自ら考える学習指導を展開したいと考えている。(本研究で使用したグラフ電卓はテキサスインスツルメンツ社のTIー92を使用した。)

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