学習指導とカウンセリング
筑波大学心理学系 石隈 利紀
(本研究に関する講師)

 私は,学校心理学(一人一人の子どもの学習面,心理・社会面,進路面,健康面における問題解決を目指した援助サービスの体系であり,学校教育相談,障害児教育,学校カウンセリングの基盤となる学問)を専門としています。私は,本研究に,研究チームの一員として,小学校,中学校,高等学校の先生8人と教育研修センターの課長・指導主事の方々6人と,3年間参加しました。研究チームの一員として,「なぜ学習指導とカウンセリングなのか」と本研究の位置づけについて,一言申し上げます。

 子どもは苦戦している。不登校,いじめ,学習障害,非行などさまざまな尚題は,子どもの苦戦の証である。そして子どもを援助する先生や保護者も苦戦している。一様でない子どもの苦戦を援助するのは,大変な挑戦である。大人は自分のもてる力を点検しながら,また伸ばしながら子どもを援助している。

 子どもの発達の苦戦の大きな一つは,学習だと思う。′ト学校の低学年の多くは,幼稚園の「やんちゃで,わがままな,自分勝手な行動を積極的にしながら,その限界を知る」という課題の続さに取り組んでいる。小学生の高学年の多くは,思春期に近づいたり,入ったりして,「自分の身体の変化をどう受け入れるか」という課題に取り組み始めている。つまり,「知識や技能を身に付けながら何かを達成していき自信をつける」という児童期の課題(勤勉性)は,従来小学校の6年間で集中的に行われることが期待されていたのが,小学生の中学年に少し落ち着いてできるだけになってしまったようだ。その結果,多くの中学生や高校生は,児童期の「学習することを学習する」という勤勉性の課題に取り組み続けている場合が多いのである。つまり,多くの子どもが,学習生活で苦戦している。勉強しすぎて疲れている子どももいるが,勉強とのつきあい方を修得していくという課題で疲れている子どもも多いのである。

 言い換えれば,子どもの学習指導場面においてこそ,子どもの問題を解決するというカウンセリングの視点と実践が求められるのである。そして,子どもの学習指導場面の代表は,授業である。では,授業におけるカウンセリングとはなにか。それは,学習指導を行いながら,子どもの学習意欲を高めたり,学習上の悩みの予防や対処という援助を行うことである。学習指導を行いながらの援助は,先生方が,意識せずに,日々行っていることであり,授業は先生が自分の力を発揮できる場面である。

 ところが,授業におけるカウンセリング的なかかわりについての研究は,あまりない。本研究は,学校心理学などの理論のまとめ,児童生徒及び教師を対象とした調査,そして授業実践を通して,教師の活動としての授業におけるカウンセリングについて検討した。
 その結果,学習指導におけるカウンセリングについての,新しい「茨城モデル」を提案した。このモデルは,日本の学校教育やカウンセリングの研究において,先駆的なものになると思う。


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