Y  研究のまとめ
   本研究は,研究主題「インターネットの教育利用に関する研究」のもとに,インターネットを利用した効果的な学習指導の在り方や情報モラルを育む指導の在り方を究明しようとしたものである。本研究によって明らかになったことを以下に述べる。
   インターネットを利用した効果的な学習指導の在り方
     インターネットでは,ホームページによる情報提供,電子メール,ネットニュース,テレビ会議など様々なサービスが利用できる。したがって,インターネットを利用するということは,これら提供される様々なサービスを目的に応じて使いこなすということに他ならない。それでは,具体的に,どのような学習活動の中でどのようにインターネットを利用したら効果的な学習指導を展開できるだろうか。授業研究の結果からまとめて述べることにするが,その前に,学習活動の中でインターネットを利用する際に留意しなければならない点を2つ述べておきたい。
     目標の明確化 〜何のためにインターネットを利用するか。〜
       授業研究に取り組む際,指導案の中に情報教育に関する目標を加えるかどうか議論となった。本研究では,目標は現行の学習指導要領の範囲で記述し,情報教育に関する目標は加えなかった。しかし,授業者は,指導案に記述しなかったが,明らかに情報教育に関する目標をもち意識的に指導を行っていた。前述した授業研究の実際によれば,情報教育の目標達成に向けての教師の意識的な働きかけがあり,そのことが教育効果に結びついていることがわかる。このことから,教育の効果を上げるには,明確な目標設定と,その達成に向けた意図的,計画的指導が必要であると分かる。したがって,各教科等の学習においてインターネットを利用する場合,「各教科等の目標達成を意図しているのか」,「情報教育の目標達成を意図しているのか」,「その両方なのか」,教師がそれを明確に意識できていなければ,教育の効果は十分に上がるものではないと考えられる。
     情報手段の意識化 〜インターネットを利用すべきだろうか。〜
       授業研究では,目標を明確にすることも大切であったが,インターネットの利用を子どもたちに意識させることも同様に大切なことであった。なぜインターネットを使うのかということを子どもたちに意識させることにより,課題を解決することができたからである。
 また,インターネットを利用するとき,インターネットの向こうにある人や物や情報などを意識させることも大切であった。インターネットを使うのは,時間的,空間的な制約があるためで,本当に必要なのは人や物や情報である,ということに気づかせる必要があった。
 このように意識させることが,インターネットを利用すべきだろうかという判断につながり,自己学習力や問題解決能力を育成し,ひいては「生きる力」を育むと考えられる。
    (1)  情報の検索を通していつでもどこでもだれでも学習
       インターネットの活用と言うと,ホームページを使って必要な情報を収集するという学習活動が一般的である。調べ学習の一つであるが,調べただけで終わってはいないだろうか。
 ダイオキシンについて調べていた中学生のグループは,ホームページの中から手軽にできる実験方法を見つけ出した。「本当にそうだろうか。試してみよう。」と考え,その情報をもとに実験を行った。自分たちの工夫も入れて,さらに実験してみた。そして学習の成果をホームページにまとめた。このように,調べたことで終わるのではなく,調べたことから課題を見い出し,新たな学習活動を主体的に展開することが大切である。
 ホームページを検索することで,学習活動を支援するプログラムを探すこともできる。このようなプログラムの多くは,Javaと呼ばれるプログラミング言語でかかれたもので,ブラウザを使ってインターネット上から読み出し,ブラウザを使って実行できるという特徴がある。市販されているソフトウェアのように,生徒用のコンピュータにインストールしなくても使うことができる。子どもたちの主体的な学習活動として,インターネットで問題解決の助けとなるプログラムを探し,そのプログラムの支援を得て解決を図るような学習活動も工夫できると考えられる。
 ホームページを利用した学習方法の大切なところは,インターネットに接続できる環境さえあれば,「いつでもどこでもだれでも学習できる」ことにある。インターネットを学習の場として積極的に利用するためにも,教材や問題解決の助けとなるプログラムが増え,手軽に利用できるように整備されることが望まれる。
    (2)  学習の成果をまとめ表現力を高める情報発信
       ホームページ作成を課題に取り組んだ結果,子どもたちの表現力が高まることが分かった。ホームページは,HTMLを直接書いても作成できるが,最近は,ホームページ作成専用の便利なソフトウェアが市販されている。また,ワープロソフトなどのアプリケーションにもホームページの作成機能が用意されているものが多い。それらを活用することで,子どもたちにも簡単にホームページが作成できる。
 調べたことで終わるのではなく,調べたことから課題を見い出し,新たな学習活動を主体的に展開することが大切であることは,前にも述べた。例えば,インターネットで収集した資料をそのままにせず,資料を整理し,自分なりの考えをまとめ,発表資料を作成し,発表するなどの活動を行うことが大切である。本研究では,プレゼンテーション資料の作成を通して学習の成果をまとめたが,発表することを意識してまとめること,互いの発表を評価し合うことで表現力を高めることができた。
 インターネットから情報を収集し利用するときは,著作権等の情報モラルに触れるよい機会である。著作権については,情報発信している人の立場に立って考えられるよう指導し,オリジナリティを大切にする子どもたちを育てることが大切である。
    (3)  意見交換などを通して考えを深める交流学習
       NetMeetingを使うことで,テレビ会議を実現できることが分かった。また,ホワイトボードを使えば,絵,図形,写真などをやりとりできたり,チャットを使えば,文字による会話も可能となることがわかった。子どもたちは,相手の顔を見て話ができることに大変興味を示すとともに,別の学校の友達の意見に関心をもち,自分の意見と比較することで考えを深めることができた。
 本研究では,3つの学校間での交流学習を実践したが,NetMeetingで一度にテレビ会議ができるのは2校だけに限られる。授業の反省として,接続を切り替えながら行ったことの問題点が出されている。このことから,NetMeetingでテレビ会議を行うときは,2つの学校間で実施した方が良いと考えられる。研究協力員の学校では,授業研究後も継続して交流学習を行っているが,テレビ会議を2つの学校間で行うと効果的な学習活動が展開できると報告されている。
    (4)  電子メールの交換を通して心の交流
       手紙やはがきをもらうことは,子どもたちにとってうれしいことである。それは電子メールでも全く同じことである。電子メールは,コンピュータで文や絵を作り,そのデータをネットワークを通してそのまま送ることができる。実践の中で,療養中の子どもたちとそれを励まそうとする子どもたちが交流したが,電子メールの手軽さが生かされていた。励ましの電子メールをもらった子どもたちは,熱心にコンピュータに向かい返事を書いていた。普段,文を書くことを苦手としている子どもでも,コンピュータで返事を書くことに集中して取り組むことができた。そして,電子メールの交換を通して,心の交流を図ることができたのである。
 携帯電話でも電子メールが送れる時代である。手紙やはがきの良さ,電子メールの良さをそれぞれ実感させたい。また,マナーも含め基本的な書き方などを指導したり,スパムメール,不幸の手紙,ウィルスの送付,個人情報の漏洩等についても学年に応じて適切に指導する必要がある。
    (5)  情報交換の場を通し子どもたちの発想から生まれる学習活動
       本研修センターのサーバに研究用のローカルネットニュースを開設した。ローカルネットニュースは,インターネットに接続したコンピュータを使って,誰もが自由に見たり書き込んだりすることができる。また,過去に書かれたものもさかのぼって見ることができるので,子どもたちがお互いの情報交換の場として利用するのに便利なシステムである。ローカルネットニュースを使い,例えば,質問を書いて誰かにアドバイスをもらうこと,自分で気づいたことを書き込み知を共有すること,共同で取り組みたい課題を話し合うことなどが考えられる。また,これらの情報交換を通して,子どもたちの発想による新たな学習活動の展開も期待できる。本研究では,十分に実践することができなかったが,今後も研究すべき価値のある内容である。そして,子どもの発想から生まれた学習活動がクラスや学年,学校という枠にとらわれず展開されていったらどんなに素晴らしいことだろう。
   情報モラルを育む指導の在り方
    (1)  ガイドラインと校内研修
       研究協力員の学校では,インターネットを活用するためのガイドラインを作成し,校内研修を通して共通理解を図り指導に当たっている。授業研究の中でも,ガイドラインを基に情報モラルを育む指導が行われていた。また,教師自身の情報モラルに対する意識の高さも見逃せない点である。教師自身が意識することにより子どもたちも意識するようになるのである。教師の情報モラルに対する意識を高めるためにも,校内研修は大切である。
 ガイドラインを作成する際に十分注意したいのは,あくまでインターネットを積極的に活用するためのガイドラインとすることである。ネチケット(ネットワーク上のマナーやエチケットのこと),著作権,人権に関わる問題への対応,セキュリティ対策など,考えておくべきことは多いが,決して規制するためのガイドラインではないことに留意したい。
 ガイドラインの作成に当たっては,平成10年度にインターネット利用推進協力者会議が作成し,平成11年6月に配付したCD−ROM「ますます広がるインターネット」を,ぜひ活用していただきたい。
    (2)  フィルタリングと情報モラル
       インターネットでは,フィルタリングといって,教育上好ましくないと思われる情報等を遮断する方法がある。フィルタリングは,フィルタリング用のソフトウェアを導入することで実現できる。フィルタリングを行うか行わないかは,ネットワーク構成,利用形態,子どもたちの実態,指導体制などにもよるため一概に決めることはできない。先のガイドラインと合わせ,各学校で十分検討する必要がある。ただし,フィルタリングは万能ではない。また,誰も人の心にフィルタをかけることはできない。従って,フィルタリングを導入しても,情報モラルを育む指導は必要であることを忘れてはならない。
   
Z  今後の課題
   各教科等の学習においてインターネットを利用する場合,各教科等の目標達成を意図しているのか,情報教育の目標達成を意図しているのか,その両方なのか,教師がそれを明確に意識することで教育効果が上がることを述べた。従って,学習指導案等を作成する際に,インターネットを利用することで情報教育の目標達成を意図するならば,それを具体的な目標として掲げる必要があるのではないだろうか。また,指導計画にインターネットの利用を位置付けるならば,先の3つの観点を検討する必要があるのではないだろうか。
 インターネットで利用可能な教材は,まだまだ不足している。インターネットの特性を生かす教材を開発したり,お互いの教材を有機的に結びつけたりするなど,子どもたちのための Web教材を整備する必要がある。また,教材開発者の交流を図ることも工夫していきたい。
 テレビ会議は交流学習の有効な手段であると分かった。テレビ会議の研修方法を工夫し普及を図りたい。また,交流学習の相手校がなかなか見つからないという現状がある。交流学習を希望している学校同士が出会える場を設定することも考えられる。さらに,テレビ会議の打ち合わせを効率的に進めるための方法も工夫する必要がある。
 インターネットで子どもたちが情報交換できる場を設定したい。そのような場を設けることで,子どもたちの情報交換から新たな発想が生まれ学習活動が展開されるなど,子どもたちの主体的な学習活動を支援することができると考えられる。
 
【参考文献】
情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議
「情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて(最終報告)」 文部省 平成10年8月


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