【授業研究6】 養護学校小学部第5・6学年「学級活動」における電子メールの活用
    茨城県立友部東養護学校  遠藤 幸一
(1)  電子メール活用のねらい
   本校は病弱養護学校であり,児童は制限の多い生活を送っているケースが多い。生活経験の少なさからコミュニケーション能力については十分に発達しているとは言えない。また,近年不登校や心身症患の児童も増加の傾向にある。いずれの児童も自己表現は得意ではない。しかも,少人数で学級を構成しているため学級の中では,児童同士のコミュニケーションを育みにくい面がある。
 今回利用する電子メールは,本校の児童にとって有効な学習方法である。児童の実態や思いに合わせて,お絵かきソフトやワープロソフトで作成した作品や文章,またはデジタルカメラの画像などを添付ファイルとして電子メールに添えて外部に発信する。さらに,ネットワークを通じて情報を受け取ったりする。
 以上のような活動を通じて,児童のコミュニケーション能力や自己表現能力を育んでいきたい。
(2)  インターネットの利用環境
   高等部職業室に,教師用1台,生徒用8台がダイヤルアップルータに接続されている。
 小・中学部パソコン室に,児童生徒用4台がPROXY2000 を使ってダイヤルアップ接続している。
図6-1、図6-2
(3)  授業の実践
   単元名  広げよう!友だちの輪
   目 標
    交流学習を通じて,コミュニケーション能力を高めるとともに自己表現力を養う。
   児童の実態
     本学級の児童は5年生4人,6年生2人の計6人である。6人中3人は,入院のため2学期より本校に転入してきた児童である。病種については様々であり,膠原病や腎臓疾患などの運動や生活に制限が多い児童,不登校・心身症の児童が同じ学級に在籍している。しかし,授業は,学年や児童の学習空白の状況等により別々に学習している。そのため,学級全体で活動する学級活動の時間は,転出入の多い本校の児童にとって貴重な時間になっている。学級活動の時間では,これまでに学級や学校生活に関することや日常の生活や健康に関することを取り上げて活動してきた。その中でコンピュータに関することも随時取り上げてきた。コンピュータを使った学習は操作能力に個人差が見られるが,全員コンピュータに大変興味や関心を持っており,積極的に取り組んでいる。社会科や理科の調べ学習,図画工作での絵の作成などでコンピュータを利用している。
   活動計画(5時間扱い)
    (ア)  インターネットを利用して友だちを見つけよう。(1時間)
      ネットワーク上のエチケットや著作権,プライバシーの保護について理解する。
      検索エンジンやリンク集,掲示板を利用して交流学習の相手校を見つける。
    (イ)  インターネットを利用して学級紹介をしよう。(2時間)
      交流学習の相手校のホームページやその地域のホームページ,資料を見て相手校について理解を深める。
      学級の中で役割分担をしてお絵かきソフトやワープロソフト,デジタルカメラを利用して学級紹介文を作成し相手校に送る。
   本時の指導
    (ア)  目 標
       ネットワークの向こう側にいる友だち(岩間町立岩間第一小学校,県立霞ヶ浦聾学校,県立鹿島養護学校)にワープロソフトやお絵かきソフトを使って,自分の思いを伝える。
    (イ)  準備・資料
       ワークシート(事前に配付),デジタルカメラ(画像ファイル),液晶プロジェクタ,フロッピィディスク(保存用)
    (ウ)  展 開
  展開
(4)  授業の結果と考察
   事前の指導から
     他の学校の友達とコンピュータを使って交流する活動について,子どもたちはたいへん積極的に取り組むことができた。ネットワークの向こう側にいる友達にいろいろなことを伝えたいという気持ちをもって活動ができたようだ。
 最初にインターネットで情報の発信をおこなう時の注意事項(ネットワーク上のエチケットや個人のプライバシーの保護)を本校のコンピュータ利用の約束(図6-3)をもとに確認した。
  図6-3 コンピュータ利用の約束
   次に,著作権について学習した。著作権については,音楽CDや出版物を例に,具体的に検討させるなどした。
 交流先の学校については,当初,いろいろな地域の学校と情報交換したいと考えていた。交流の方法としては,インターネットの掲示板を利用することを考えていた。
 しかし,適当な学校が見つからず,かつて本校に在籍していた児童がいる小学校や同じ県内の養護学校と交流学習をすることになった。(岩間町立岩間第一小学校,県立霞ヶ浦聾学校,県立鹿島養護学校)また,交流の方法も電子メールを活用することになった。
 学級全員で,インターネットを利用して交流先の学校のホームページを分担して検索し,印刷してそれぞれの学校の様子を調べてみた。自分たちの学校の様子と違うことに興味をもちながら,地図で場所を確認したりした。交流先の学校の中には,以前本校に在籍していた児童が退院して戻った学校もあり,児童はなおさら興味をもったようである。
 次に,自分達の学校や学級の様子を交流先の学校へ伝えようと,学級全員で話し合い,それをもとに学級紹介文をワープロで作成した。図6-4 は,係になった児童が作成したものであるが,その中に,「ぜひ地域交流などの学校の行事の様子を載せたい。」「次は,個人毎に手紙を出したい。」と言った意見も出て,楽しく活動することができた。
 学級紹介文は,電子メールの添付ファイルとして交流先の学校に送信した。送信した後,子供たちは交流先からの返事を楽しみにしながら,自己紹介の文や作品を制作することにした。
  図6-4 学級紹介文 図6-5 自己紹介カードの下書き
   本時の指導
     コンピュータを使った学習には積極的に取り組む学級であるが,操作に関しては個人差が目立った。学級6人のうち半分の3人が2学期から本校に転入してきた児童であり,ソフトウェアの操作に慣れていなかったために,文字などの入力に戸惑う場面があった。
 授業の中では,児童が自分自身で自己紹介カードを作成するソフトウェアを,「えほんらいたー」,「ペイント」,「一太郎スマイル」の中から選択する方法をとった。
 「えほんらいたー」は,低学年から利用できる絵本作成ソフトで,比較的簡単な操作で絵や文字の入った作品を作成できる。
 「ペイント」は,Windows 標準のお絵かきソフトで,子どもたちは以前,図画工作の学習で利用しており操作に慣れている。
 「一太郎スマイル」は,ワープロソフトである「一太郎」の小学生用で,学年に対応した漢字の変換機能や入力の容易性が特色のワープロソフトである。
 子どもたちは,自分の思いをもっとも表現しやすいソフトウェアを選んで使ったわけであるが,ソフトウェアによっては操作が難しいものもあり,思ったより作成時間がかかった。
 子どもたちは授業の前に自己紹介カードの下書き(図6-5)をそれぞれ作成した。これには,ホームページを見て考えた交流先の学校の人たちに聞いてみたいこと,自己紹介,授業の中で紹介した各学校からの手紙や作品に対する感想や質問などを記述しておいた。
 実際に作成してみると,子どもたちは,作品や手紙の形式はその使用するソフトウェアに合わせて自由としたが,それぞれに工夫して作成できた。写真などを使って自己紹介の手紙を書いたり,コンピュータで描いた絵に手紙を書き入れたりと個性的な自己紹介カードを作成することができた。児童の中には作成したカードに自分の住所などの個人情報を記述したものがあったが,プライバシーの保護ということから,今回は送信の対象としないことにした。
図6-6 授業の様子
図6-7 児童の作品@
図6-8 児童の作品A
図6-9 交流先の学校より@ 図6-10 交流先の学校よりB
図6-11 交流先の学校よりA
図6-12 交流先の学校よりC 図6-13 交流先の学校よりD
   考 察
     本学級の児童は,社会や理科などの調べ学習でコンピュータを使う機会があったが,電子メールを使った取り組みは今回が初めてである。今までは一方的にコンピュータから情報を得る場面のみであったが,電子メールを使って情報を発信するに当たり,ネットワーク上のエチケットについて考える時間を設けた。最初のうちはコンピュータの向こう側に誰かがいるということや,ネットワークで世界中と繋がっていることがつかみにくく,理解し難かった。そこでインターネットの概要を説明し,利用の仕方を学級で考えてみた。児童はインターネットの便利さに興味をひかれたようだ。その過程で,個人のプライバシーや著作権について,具体例を交えながら,自分の立場で考えることができたのは,たいへん有意義だったように思われる。
 授業の中では,文字の入力に戸惑う場面がいくつか見られた。日本語の入力に関してはカナ入力とローマ字入力があるが,通常は児童自身が扱いやすい方を使うように指導している。ローマ字については,小学校第4学年で学習するため,児童にはローマ字入力を奨めているが,複雑な濁音などは入力しにくいようだ。ローマ字表をキーボードの近くに設置しているが,習得するまでには至っていない。日常的にコンピュータに触れる機会を設け,慣れることが必要であろう。
 実際にコンピュータを使う時間は,ティームティーチングで指導に当たったが,これは操作能力において個人差が大きいことから,個別的な指導が必要だと考えたからである。日常の授業においても,新しいソフトウェアを利用する場面などでは,ティームティーチングで指導にあたる場合が多い。特にコンピュータの操作に慣れていない児童を指導する場面では,有効である。本学級の児童は,基本的な操作を覚えると,興味や関心をもってコンピュータを利用する学習に取り組んでいった。
 電子メールについては,学校のメールアカウントが一つしかないため,交流学習用のメールと学校宛のメールが混在してしまうと予想された。それを防ぐために,今回の取り組みでは,茨城県教育文化情報ネットワークが提供しているメールアカウントを,交流学習用に利用させてもらった。
 児童の作品については,電子メールに直接文章を入力しないで,他のソフトウェアで作成した。それを電子メールの添付ファイルとして送ったが,それは児童のコンピュータ操作能力に個人差があったことが一番の理由である。加えて,児童自身が自分の思いを一番表現し易いソフトウェアを選択することで,活動に意欲を持たせることをねらいとした。そのことで,ワープロソフトの文章や絵の中に文字をいれたカードなど,個性的なものが作成できて活動の幅が広がり,児童相互でも友達の作品に興味を示すことができたようだ。
 今回は,電子メールを交流の手段として使ったが,動画や音声といった表現方法も考えられる。さらに,テレビ会議システムの利用についても考えていきたい。
(5)  授業の成果
   学級の子どもたちは,コンピュータを使う学習が大好きである。コンピュータを用いることで児童の興味や関心を高めることができた。今回の取り組みでは,インターネットの電子メールを初めて利用したわけであるが,ネットワークを使うことで,学校の中だけでなく外にも友達ができる楽しさを味わうことができた。その活動の中で,以下のような成果があったように思う。
 第一に,コミュニケーション能力の高まりがあげられる。活動の中で児童は,今までは一方的に情報を得るのみだったインターネットであるが,自分たちで電子メールを利用して情報を発信したことにより,その向こう側にいる友達に,自分の思いを伝えようとして表現方法を積極的に工夫しようとする姿がみられた。慣れないうちは画像やペイントの作品が中心であったが,「ワープロで文章を作ってみたい。」「あの写真を送ってみたい。」といった言葉が児童の中から出てきた。どちらかというと積極的に自分の考えを表現することが得意ではなかった児童についても,積極的に活動することができたことは有意義だったようだ。
 次に,インターネットやコンピュータを積極的に授業に取り入れたことで,児童の興味,関心,意欲が高まり,自主的,自発的な学習が展開できたことが上げられる。学級の児童はコンピュータを使う時間を楽しみにして活動に取り組んでいた。操作に関しては,はじめは分からないことが多かったようであるが,いろいろなことを覚えるにしたがって,「先生,これはどうすればできるの。」といった質問が出てくるようになり,新しいことをどんどん吸収していったようだ。帰りの会で1日の反省を発表する場面では,「今日はコンピュータを使った学習が一番楽しかった。」という意見が多かった。児童の中には,「ワープロをぜひ覚えたい。」「あのソフトを使って名刺や作品を作りたい。」という意見も出てきた。今回の電子メールを使った取り組みでは,交流先からの返事を大変楽しみにしていたようである。ぜひ児童のこのような自主性,自発性をさらにのばしていきたいと思う。
(6)  今後の課題
   今回利用した電子メールも含め,学習の手段として大変有効なインターネットであるが実際に利用する場合いくつかの課題が出てきた。
 まず,一つ目としては,「情報モラルに関する指導を十分に行うこと」である。今回の取り組みの中では,情報発信に関して具体的に考える場面をもつことができたが,通常の学習の中では,場の設定がしにくいため,具体的に指導しにくい。特に小学生という段階では,具体的な事例を示すことが効果的なようである。本校においては,平成10年度にインターネット利用のガイドラインを作成し,情報に関する様々な場面で指導しているところではあるが,児童生徒の間に十分浸透しているとは言えない。教育計画の中に明確に位置付け,意図的に児童生徒の発達段階に合わせて指導して行くことが必要である。
 二つ目としては,「コンピュータの利用環境を整えること」である。本校では,毎年コンピュータやインターネットへの接続などを見直ししているところである。しかし,まだまだ十分に使い易い環境とはいえない。メールアカウントにしても,当初,学校全体で1つしかなかったため,使いにくい面があった。現在は,メールアカウントを増やしてもらい使い分けている。コンピュータをより日常的なものにするため,さらなる設備の充実を図っていきたい。
 三つ目としては,「授業の中でインターネットを利用する際,単に利用するだけでなく,その目的に沿って工夫すること」である。インターネットから得られる情報は莫大であるが,それをどう活用するかがキーポイントになる。児童生徒自身が情報を選別する能力を育むことはもちろんであるが,インターネットのよさを意図的に指導することも必要であると感じた。

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