【授業研究2】 中学校第1学年数学「量の変化と比例」におけるJava appletの活用
    桂村立桂中学校  村岡 康秀
(1)  Java applet活用のねらい
   Javaは,WWWブラウザの機能の向上に伴い,最近特に注目されている言語であり,Java ap-pletは,Javaによって作成されたアプリケーションソフトウェアである。これまでWWWブラウザ上ではなかなか表現できなかった描画等を可能にしたもので,動きのある様々な場面で使用されるようになった。
 Java applet を動かすためにはclass ファイルが必要だが,一般的にこのclass ファイルの起動がやや重く,動作するまでに時間がかかるのが欠点である。しかし,今回活用する「関数のグラフ」のJava applet は,標準的なマシンで十分動作するようにできており,表示も満足のいくものである。またユーザーの希望する関数式を新たに付加することができ,作者の使用する側に立った親切な配慮が伺われる。基本的には高校生を対象にした作品であるが,上記の関数式の付加ということを考えると,十分中学校領域でも活用できると言える。さらに,ユーザーは高校領域の関数式と出会えるため,一歩踏み込んで高校の関数を体験しながら,関数に対する興味・関心を高める効果がねらえるのではないかと推測する。
 Java applet による「関数のグラフ」を利用する大きなねらいは,市販されているアプリケーションソフトウェアや,教育界で開発されたフリーのソフトウェアを,わざわざ入手したりインストールすることなく,ネット上で手軽に使用できる点にある。課題解決の道具として必要なソフトウェアをインターネットを使って検索し,生徒自らが使用し解決できることは,これからの時代にまさに必要なことであり,大いに評価されるべきであろう。
(2)  インターネットの利用環境
   教師用コンピュータ1台をサーバ(Windows NT 4.0 WorkStation)とし,生徒用20台(Win-dows95)がLAN接続によりネットワーク化されている。
  図2-1 桂中学校のネットワークシステム
   インターネットへの接続は,ISDNルータ(128kbps)によるダイアルアップでつなぎ,どのマシンからもインターネットが利用できる環境にある。プロバイダは,「ネットいばらき」「ASAHI-NET」の2社と契約しており,桂中学校ホームページは,「ASAHI-NET」からのみ発信している。
(3)  授業の実践
   単元名  量の変化と比例
   単元の目標
 
観 点 目   標
数学への関心・意欲・態度
  • 2量が比例(反比例)の関係にあるかどうかを調べるのに,進んで表やグラフ,式で表そうとする。
  • 具体的な問題解決場面に当面した際,関数関係を考察する方法を進んで活用しようとする。
数学的な考え方
  • 事象の中から関数関係にある2量を見出す。
  • 変数の変域や比例定数の値を,負の数も含む数の集合まで拡張する。
  • ある量の変化を調べるのに,他の量の変化に関係づけて考察する。
数学的な表現・処理
  • 事象の中のともなって変わる2量の関係を,表やグラフ,式で表すことができる。
  • 比例(反比例)のグラフをかくことができる。
数量・図形などについての知識・理解
  • 「yはxに比例(反比例)する」ことの意味を理解し,比例定数を求めることができる。
  • 比例(反比例)の関係には,固有の変化や対応の特徴があることを理解する。
   単元について
    (ア)  教材観
       小学校の数量関係を基礎とし,具体的な事象の中からともなって変わる二つの数量を取り出し,その変化や対応の仕方を考察し,関数関係の意味を理解することがねらいである。
 しかし,関数学習では特に文字を使った形式的な指導に陥りやすいため,常に生活場面に則した具体的な例を提示しながら授業を展開していく必要がある。その際,二つの数量の変化や対応の様子を表やグラフに表現しながら視覚的に考察できることが重要な内容である。
    (イ)  生徒の実態(男子19人,女子16人,計35人)
       計算処理能力に優れ,数学を得意としている生徒が比較的多い学級である。しかし,小学校までの比例・反比例の学習の分野では,学力診断テストにおいて県の平均から約5〜10%低い結果が得られている。特に関数では,量の変化が2つになるため,当然戸惑う生徒も予想されまた形式的な文字式の操作だけにならないよう,十分個別指導していく必要がある。
 また,負の数まで拡張して表現する変化の対応表やグラフでは,小学校までの学習を基盤とし,x−yの対応する値を能率的に求め,コンピュータ等を利用して表現していく能力を伸ばしたい。
    (ウ)  指導観及びインターネット利用について
       二つの量の変化を対応表だけで考察することは大変難しいため,グラフ化することにより変化の様子を視覚的にとらえることができるようにする。この作業を,生徒が自分のノートに作成したグラフとコンピュータが描くグラフとを比較することにより,二つの数量関係の変化の様子をより深く考察できるようにさせたい。
 コンピュータによるグラフ表示については,インターネットに接続しWWWサービスで公開されている数学に関する Webページを利用することにする。利用する Webページで提供される「関数のグラフ」のグラフ表示は,関数命令をユーザーが指定できる機能があり,関数が比例や反比例だけではないという発展性を含んでいる。そのため,インターネットを使い効果的に問題解決できる方法として,数学に関する Webページを活用したい。
   指導計画(12時間取り扱い)
     第1次  量の変化 ―――――――――――――――2時間
     第2次  比例と反比例 ―――――――――――――――2時間
      第1〜3時 比例  
      第4時 座標  
      第5〜6時 比例のグラフ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(本時は第6時)
      第7〜8時 反比例のグラフ  
      第9時 練習問題  
     第3次  章末問題 ―――――――――――――――1時間
   本時の指導
    (ア)  目 標
       比例の式から効率よくグラフを作成することができる。(表現・処理)
       グラフを読み取り,関数の式を求めることができる。(表現・処理)
    (イ)  準備・資料
       教科書,ノート,まとめと課題のプリント(1−25)
       FD「PAL教育システム1年」17枚
       コンピュータ(インターネット接続端末生徒用17台,教師用1台)
    (ウ)  展 開
  展 開
(3)  インターネット接続 Webページについて
   Java appletの概要と「関数のグラフ」
    図2-2 「数学とコンピュータ」スタートページ
    図2-3 Java Appletのメニュー 図2-4 関数のグラフ
   URL
    ・http://www.kcn.ne.jp/~yosikazu/ 「数学とコンピュータ」スタートページ
    ・http://www.kcn.ne.jp/~yosikazu/java_lt.htm Java appletのメニュー
    ・http://www.kcn.ne.jp/~yosikazu/java_ct.htm 関数のグラフ(本時で使用)
   使用許諾について
     Java applet による「関数のグラフ」を提供していただく大西氏には,現在メールで授業での使用許可を申請中である。(平成10年8月18日現在)
 大西氏から9月3日(木)にメールで返事が届き,授業での利用と Webページの一部引用を快く許諾していただいた。
    図2-5 大西先生からの許諾のメール
(5)  授業の結果と考察
   3授業について
     今回の授業では,コンピュータ操作が大きな時間を占めてしまい,グラフ表示にコンピュータ自体の特性を生かした利便性やCGの美しさを味わう余裕が少なかった。
 その原因としては,次の3点が挙げられる。
    (ア) コンピュータ(OS:Windows95)の基本操作の指導の不徹底
    (イ) インターネット[URL]特有の文字入力の不慣れ
    (ウ) 17台のマシンの同時インターネット接続時のビジー状態
     Java applet の「関数のグラフ」により,問題のグラフを表示させ,答え合わせをした後,二人一組で問題を出し合い,グラフの式を読み取るところまで扱いたかったのだが,時間がきてしまい答え合わせで終わってしまった。
 最終的には,1つのグループを除いて,目的の Webページにアクセスでき,自分の解答をインターネットを使用して答え合わせすることができた。上記の原因により,十分な学習時間が得られなかったことは,今後の課題と言える。
   授業の中のインターネット使用について
     元々,生徒はコンピュータに高い興味をもっており,アンケートの結果では35人中34人がコンピュータを使用した授業は楽しかったと答えている。特に,「インターネット」という言葉には敏感で,インターネットで何ができるのか,授業前の期待感や興味深く待っている様子が生徒一人一人から伺えた。
 コンピュータに興味があるのは,殆どの生徒がゲーム感覚で面白いものと思っているようだが今回使用したJava applet によるグラフ表示では,操作の結果がコンピュータを通してビジュアルに目に飛び込んでくるため,実際に表示させたときは歓声が上がった。
 また,すでに誰かが提示したものから答え合わせをするのではなく,生徒の手で数値を入力することにより解答が得られるところに,ポジティブな学習の展開が実現できたといえる。
   授業の考察
     「比例のグラフ」を2点だけとって効率良く作成することは,前時までの学習で取り組んでおり,生徒が作成したグラフが正しいかどうかをコンピュータの表示するグラフと比較することにより,グラフの作成方法が間違っていないことを確認するのがこの時間の目標である。今回インターネットを利用して全員の生徒が答え合わせをし,目標は達成できたが,次の段階の表示されたグラフから比例の式を求める<Bコース>へは,時間がなくなり進めなかった。
 <Bコース>の問題は,グラフを読みとり,関数の式を求める作業なのだが,目標の半分しか進めなかったため,反省が残る。できれば同じ時間内に体験させたかった場面であり,次の授業において<Bコース>の答え合わせを行うことになってしまった。授業にインターネットを利用する場合,授業の進度を十分考慮しておかなければならない。
(6)  授業研究の成果
   コンピュータの基本操作に関して
     インターネットに関する実態調査も含めたアンケートで得られた結果であるが,Windows95の基本操作については,小学校で経験しているため,ある程度できる生徒が多かった。しかし全く触れたことのない生徒が6人もおり,今後時間を確保し支援する必要がある。
 また,コンピュータの操作についての現状は,マウス操作が中心であり,文字の入力等を伴うキーボード操作については不慣れであった。インターネットを利用する場合,文字入力はどうしても必要であることが理解でき,生徒たちにとっては貴重な体験であったと思われる。特に,インターネットに特有な文字を知ることは,他の場面でインターネットを利用するときにも十分役に立つものである。
   インターネットの利用意識に関して
     インターネットそのものについては,4人の生徒が1・2回程度家庭で経験していたが,家庭にインターネットが使える状況があっても,殆ど利用していないのが現状であった。
 今回の授業では,5人で1台等の形態にせず,テクノロジーリテラシーの向上をねらい,コンピュータ環境の許す限りマシンに触れられる2人1台の設定を選んだ。そのため,(5)ア(ウ)で述べたようなデメリットも避けられなかったが,生徒のインターネットに対する必要性は,意識的に向上したと思われる。
 また,インターネットで得られる情報に高い関心をもつようになり,この授業のあと,多くの生徒からインターネットを利用したいという要望が出てきた。インターネットを利用することで情報を得られるという価値観が生徒に浸透した結果である。
   「関数のグラフ」でインターネットを利用すること
     今回,インターネットを数学の授業に導入し,「関数のグラフ」をインターネットを通して表示させたことについて,次の3点の利用価値を見出すことができた。
   
(ア)  インターネットに接続できる状態にあれば,数学の授業という限定された場面だけではなく,場所や時間を越えて,誰でも「関数のグラフ」を学習することができる。
(イ)  「関数のグラフ」の学習ソフトウェアを,コンピュータの台数分用意する必要がなく,またインストールする手間も省ける。
(ウ)  ノート,グラフ用紙,定規を利用する基本的な授業から発展し,生徒自らの意志に基づいて「関数のグラフ」等の学習ができるといった自由度の大きさが保証される。
     特に,(ア)(イ)に関しては,数学の授業ばかりでなく,インターネットを利用するすべての教育活動に共通する重要な特徴であると言えよう。クライアント20台分のソフトウェアの準備を一教師で担当することは,教育活動の中の時間としては負担の多いことではないだろうか。
 今回使用したJava applet の「関数のグラフ」を公開している Webページは,まさにその点を淘汰しているといえる。マルチメディアを授業に活用する場合,コンピュータの利便性は大いに評価されるべきである。
(7)  今後の課題
   今回の授業を通して,インターネットを利用するに当たり様々な問題点が明確になり,下記にそれらを示した。しかし,これらの点については,すぐに改善できるものもあれば,これからの教育活動に待たざるを得ないものや,学校の予算に左右されるものもある。特に,インターネットを同時に起動させる場合,アクセスする Webページがはっきりしている場合は,キャッシュしておいたり,Proxyサーバを導入することも考えている。
 
問題点(または課題) 改善策(または解決法)
生徒の基本的なコンピュータ操作の習熟度の低さ
コンピュータ指導の明確な位置づけと小学校からの統合的で継続的な計画
インターネット接続時のビジー状態
前もってハードにキャッシュしておくこと現在のコンピュータ環境の更なる拡張
現在のコンピュータ環境の更なる拡張
学習活動場所が隔離されたコンピュータ室のみという現状
コンピュータの各教室への設置とLANシステムの導入
インターネットの授業への効果的な活用と一般家庭への浸透
教師自身のコンピュータ技術向上のための研修と意識の高揚
   今後は,以上のような課題を少しでも改善できるように努め,有効なコンピュータの利用にさらに励んでいきたい。

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