「生きる力」を育む「総合的な学習の時間」の創造
―学び方の学習を取り入れ,単元構成を工夫したA中学校の事例―
 研究のねらい
   生徒が自ら問題をとらえ,適切な課題を設定し,追究・解決できる資質や能力を育てる総合的な学習の時間のあり方を究明する。
   
 基本的な考え方
   「総合的な学習の時間」では,自ら課題を見付け,よりよく問題を解決する資質や能力を育てることが大切である。そこで,単元構成の中に,自ら課題解決を進めるために不可欠な言語リテラシー,メディアリテラシー,情報活用能力など学び方の基本となる「学ぶ技術」を身につける学習を位置付けることにした。具体的には,学年を単位として,情報の収集,調べ方,まとめ方,報告や発表など情報の発信のしかた,討論のしかたと課題解決の手順を,学び方の学習の柱と考えて学習計画に取り入れ,実践することにした。
   
 学校・地域の実態
   本校は筑波研究学園都市のほぼ中央に位置している。11学級の中規模校で,周辺には筑波大学や各研究機関,公園等が隣接しており,学術的にも自然にも恵まれた環境にある。
 本校の生徒は,各教科の内容だけでなく,さまざまな課題に興味・関心を持ち,知的好奇心や探究心が旺盛である。また,開校当初より,大学・研究機関に留学あるいは勤務する外国人の子女が多く編入し,身近な国際交流が盛んで,国際性も豊かな生徒が多い。
 しかし,その反面,教科の学習で培った知識や能力を実生活で生かすことが苦手である。
   
 具体的な工夫
  (1)  「総合的な学習の時間」において課題追究を行う際に必要な基礎的な「学ぶ技術」について,以下の3点を1,2学年の学習計画の中に位置付けることにした。
     言語リテラシー
      読み・書き・聞くことに関する技能
      図書・文献の読み,報告書の作成,インタビューの技能
     メディアリテラシー
      コンピュータ及び各種メディアの活用の技能
      各種情報機器の選択・操作,インターネットなどの通信を利用する技能
      情報の収集・処理,質疑応答,討論などの技能
     課題設定能力
      自らの体験を生かし,課題を設定し追究する能力
  (2)  各学年の実施方法
     本校では,各学年の単元構成のなかに,「学ぶ技術」の基礎になる学習内容を計画的に取り入れ,学習計画を作成した。それぞれの学年で,テーマについて課題を発見し,コンピュータやインターネット,メールや電子掲示板,ディベート,ロールプレイなどさまざまな技能を身につけ,その技能を十分に生かし,コミュニケーションを図りながら総合的な判断力をはぐくむことができるように工夫した。
     各学年の実施方法(平成11年度 35時間)
   
学  年 学習内容
基本的に学年単位で実施。指導は学年T・Tで実施する。
第1学年 環境分野を題材にした学習「身近な環境から考える」
〔学び方の学習の観点〕
・情報の収集・加工・発信の技術の習得,情報に関するモラルの育成などの学習を通して,「環境にやさしい行動」を発見する。
第2学年 国際分野を題材とした学習「地球市民として生きる」
〔学び方の学習の観点〕
・課題設定の方法の習得と向上,発表・討論・課題追究技術の育成を通して,「国際貢献活動」を中学生の視点から検証する。
第3学年 地域の素材を活かした課題解決学習「未来のつくば市」
〔1,2学年で学んだ技術を応用して学習する〕
・私たちの考える「未来都市つくば」について政策を創造・立案する。
※2学期末に「総合的な学習の時間」のまとめを行うように計画する。
     年間活動計画の単元構成の具体的な工夫
       各学年のテーマについて課題追究を行うとともに,「学ぶ技術」について,以下の内容を年間学習計画に位置付けた。また,各学年ともに夏休みのフィールドワークやゲストティーチャーとの交流を通して,地域の素材や人材と積極的に関わる場面を設定することにした。
      (ア)  第1学年で扱う内容(10時間)
         テーマ設定の仕方(イメージマップの利用),図書の検索法(市立図書館での実習),コンピュータ・インターネットの利用法,ネチケットの学習,手紙・FAXを通した情報収集の仕方,インタビューの仕方等基本的な技能を学ぶ。
      (イ)  第2学年で扱う内容(6時間)
         貿易ゲーム等の体験的活動を通して,グローバルな見方を育て課題を設定する。
         ロールプレイや討論活動を通して,更に課題を深める。
      (ウ)  第3学年で扱う内容
         1,2年で身に付けた技能を生かし,個人で課題解決学習を行う。自分たちの身近な地域を学習材として取り上げることで,学習の成果を将来の自分の生活に役立てる。
   
 評価の工夫
   イメージマップ作成,ネチケット(モラル)学習,コンピュータ・インターネット実習については資料や実習シートを利用して自己評価を行い,ロールプレイや討論方法の学習については相互評価を取り入れるなど,活動場面によって評価の方法を工夫する。
   
 成果と今後の課題
  「学ぶ技術」の学習を「総合的な学習の時間」に取り入れたことで,情報収集のマナーを理解し,主体的にメディアを利用したり,地域の人材や研究機関と交流する場面が広がり,課題をよりよく解決しようとする態度が高まった。今後は,学習の成果を自分の生き方に関わる実践活動につなげていけるように,更に単元構成を工夫していきたい。


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