身近な環境を考える「総合的な学習の時間」の展開
「湖―『きたうら』を見つめる」の単元構成の工夫に取り組んだA中学校の事例
 研究のねらい
   生徒の身近にある湖『きたうら』に直接的に向かい合わせ,「環境問題」を中心に社会の在り方と自分の生き方,人間としての在り方をリアルに学びとっていく「総合的な学習の時間」を目指すこととした。そこで,湖『きたうら』の単元構成を工夫し学習を進める中で,新教育課程の実施に向けた 「総合的な学習の時間」 の単元(学習内容)づくりに生かすための課題を明確にする。
   
 基本的な考え方
  (1)  生徒の実態をとらえ,どのような生徒にしたいのかを十分話し合い,育てたい生徒像を明確にさせた上で,「総合的な学習の時間」を展開していくこととした。
  (2)  各学年の単元構成をする上で,学習のねらいを明確にし,そのねらいを達成させるためにどのような工夫をし,どのような課題が残るのか研究していくこととした。
   
 学校・地域の実態
   本校は,東西を湖に囲まれた行方台地の北浦側のほぼ中央に位置する畑作中心の農村地帯の中にある。生徒は純朴で,保護者も学校に対して協力的である。しかし,少子化が進み来年度は,学級減で7学級の規模となる予定である。
   
 具体的な工夫
  (1)  求める生徒像
     学校としての求める生徒像を明らかにし,それをうけて,左図のような学年段階での生徒像と学習のねらいをはっきりさせた。それによって,教師はもちろん生徒も何をねらって学習活動を行うのかを明確にすることができた。
求める生徒像と学習のねらい
  (2)  単元構成
    学習予定表  図1のような,学校全体の学習予定表を作成各学年で行う「総合的な学習の時間」の単元構成する上での基本とした。各学年で,配当時間に従って指導計画を立てた。各学年とも共通で行うものとして,ガイダンス,基礎学習,グループ別オリエンテーション,パネルディスカッションがある。ガイダンスについては,各学年の教師が,それぞれの学習のねらいや具体的な学習テーマなどについて話をした。生徒は,興味・関心に沿ってグループをつくり,どんなことを調べていきたいのか明確にしていく。
  (3)  「総合的な学習の時間」の時間設定
     基本的には週3時間の「学校裁量の時間」を,「総合的な学習の時間」に充てて実施した。土曜日のノーカバンデイ3時間を4回,平日午後からの2時間を4回で計20時間の活動時間をとった。平日の午後実施した時間については,後日の土曜日に振替授業を行った。
  (4)  学習内容と学習後の生徒の主な意見
  1 年 2 年 3 年




北浦の湖岸探索
調べてみたいところの課題設定
    北浦の地形、北浦の自然
    北浦の歴史、北浦の役割など
調べ学習
  北浦に関する資料
  図書室資料(図鑑、百科事典等)
まとめと発表会
北浦の汚れの現状調査
  現地の観察、調査
  サンプルとしてのごみ採集
調査とまとめ
  水質や微生物調査
  写真やスケッチブック・レポートを基にしたまとめ
発展
    クリーン作戦
    廃油による石鹸づくり
北浦と他地域の湖との調査比較
  国内  霞ヶ浦、琵琶湖、富士五湖、十和田湖、摩周湖など
  海外  五大湖、カスピ海、チャド湖など
調査とまとめ
  電話、インターネットの利用
  模造紙等にまとめる
発表会







生徒に密着した北浦を大切にして、生活していかなければならない。
自分たちで北浦を少しでもきれいにしていける方法などを、今後、考えていきたい。
自分たちがまず、ごみや汚れの原因となるものを出さないことが、大切だ。
各家庭に、ごみや汚れの原因となる廃油を出さないようにチラシを出したり、有価物回収の時に呼びかけたりしよう。また、せっけんのほかにもリサイクルできるものはないだろうか。
環境問題が心配であり、どこの地域や国でもその改善に向けて、いろいろな対策を講じている。せめて身近にある北浦だけでも、きれいな状態を保っていけるように努力していきたい。
県や国の環境問題対策についても、もっと調べていきたい。
   
 評価の工夫
   各学年ごとに教師は,主に観察を中心に生徒の活動や学習内容について評価をしていくこととした。また,生徒も単元の活動を振り返ることができる,自己評価表を基に評価し,活動グループの中でも相互評価をするようにした。
   
 成果と今後の課題
  (1)   成果
     生徒は,普段意識してみることがなかった身近な自然に触れ,環境問題を考える上で,「湖『きたうら』を見つめる」の単元は効果的な素材であった。
     普段の授業より,作業的,体験的な学習が多いためか,学習のねらいから大きく外れることなく,しかも意欲的に活動する生徒が多く見られた。
  (2)  課題
     学校内外の学習環境(人的・物的・時間的・空間的など)を点検・整備し,生徒の活動がスムーズにできるようにする。また,教師の共通理解に立って学習材の共有化を図る必要がある。さらに地域の人材活用を一層図り,謝礼や安全面の配慮にも十分な検討が必要である。
     学習の手だてをさらに工夫し,教育課程全体を見直し(時間の確保も),いろいろな表現方法を引き出させる取り組みが今後必要である。
     生徒がテーマや課題に応じ多様な方法で個性的に学習を進めていくことを基本としているため,教師には学習内容・方法を支援していく力量が必要である。一人一人の教師が「総合的な学習の時間」を創造していける力量がもてる研修を積んでいきたい。
     時間を十分にとった学習活動が必要だが,それに見合う綿密な指導計画を検討する。
     「総合的な学習の時間」が軌道に乗るまでは,学習の手引きの作成により活動への支援の手だてとしたい。また,学習記録を学校としてファイルすることも大切にしたい。


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