総合的な学習と関連付けた生活科学習の工夫
─地域との関連を重視した生活科学習を実践しているT小学校の事例─
 研究のねらい
   自ら学び,自ら考える力をもつ児童の育成を目指し,生活科の学習と「総合的な学習の時間」を効果的に関連付けるための手立てについて究明する。
   
 基本的な考え方
  (1)  自分と人・社会・自然とのかかわり,そして自分自身に関する学習が生活科の基本的 な視点として示されている。「総合的な学習の時間」で育てようとする力は,生活科と同一線上にある。生活科で培われた力が,「総合的な学習の時間」でさらに強化されると捉えることができる。
  (2)  生活や学習場面での自立への基礎的な役割を果たす生活科の学習は,総合的な学習の時間の基盤として位置付けることができる。したがって,生活科学習の中で,持続している対象や問題意識を見取っていくことが,「総合的な学習の時間」の在り方を考える上で大切な視点である。
   
 学校・地域の実態
   本校は,明治6年に創立し,児童数 551人,19学級である。学区およびその周辺には,県立歴史館・堀原運動公園・国立病院・保和苑・公民館などの公共施設が多い。さらに,偕楽園をはじめ愛宕山古墳・曝井など歴史的な遺産も数多く残っている。市街地にありながら,校庭はけやきやくぬぎなどの木々に囲まれ,そして学校の周辺には畑が見られるなど,豊かな自然環境に包まれているので,子どもたちが学習を進める上で恵まれた環境にある。
 地域の人材や施設等をまとめた生活科マップを活用した学習を実践しており,地域との交流の中で地域のよさを生かした教材開発の研究を継続している。
   
 具体的な工夫
  (1)  体験的活動としての遠足
     第1学年:生活科単元「秋たんけん」
       野外に出かけ,興味や関心をもって生き物や草木を観察し,自分なりの思いや願いをもって自然とかかわることのできるように計画した。
     第2学年:生活科単元「とおくの町たんけん」
       子どもたちにとって,公共の交通機関を使うことは,自分自身の生活を広げたり豊かにしたりすることができる。現地集合の形態で,駅で切符を買ったり時刻表を調べたりする中で,社会とかかわっていることを実感できるように計画した。
  (2)  教科を基盤とする異年齢集団活動
     この活動は,第2学年生活科「やさいづくり」と第5学年家庭科「調理」を結びつけた異年齢集団・複数教科による活動である。第2学年では,収穫した野菜の料理法へ発展させたい。一方,第5学年では,調理の材料に変化を求めて身近な体験活動にしたい。両者の特徴を生かした活動にする。
 教科学習での活動は,場合によっては合科の形式で実施することで一教科では得えられない体験的活動が可能となる。この活動は,教科のねらいを外すことなく生活科と家庭科とが合同で実施しており,異年齢集団での豊かな情操をはぐくめるように計画した。
  (3)  地域の人材を生かす教科経営
     第1学年生活科「はなづくり」・「どうぶつとなかよし」・「かぞくたんけん」・「つくってあそぼう」,第2学年生活科「町たんけん」・「やさいづくり」・「おまつりしよう」など,地域の人材(以下GT)を活用できる単元が多い。GTの活用に関して,学校(教師)が一方的に協力をお願いするだけでなく,活動内容そのものについてもGTとともに話し合いながら進めるなかで,GTと教師の相乗効果を期待できるように計画した。
  (4)  人材バンクの整備(生活科マップの拡充)
     生活科では,生活科マップがすでに作成されているので,それを修正・拡充することにより,「総合的な学習の時間」を展開するために必要な人材バンクを作ることが可能になる。この方法以外に人材バンクを作るために試みた主な方法は,次のとおりである。
     保護者・地域の人々に人材募集の手紙を出す。
     PTAや地域の自治会が主催する体験コーナー(教室)の担当者に登録してもらう。学校の立場は「敷居は低く,間口は広く」という観点から募集を試みた。概ね必要とする人材の確保が可能なものとなってきた。
 教師が中心に人材の募集するだけでなく,児童自身が活動過程で知り合った人を人材バンクに登録していくことも重要である。児童たちにとって地域の人材は,教師から紹介してもらうだけでなく自分たちで捜すという活動を展開することは,主体的に学び方を学ぶという観点からも意義のあることである。
   
 評価の工夫
   小学校学習指導要領改訂で,指導の効果を高めるために合科的・関連的な指導を進めるとされた。子どもたちが見たり聞いたり体験したことを実物再現したり,すごろく・クイズ・絵本等で表現したりする場合には,関連する教科の学習したことを生かして指導することが大切である。
 生活科の観点のみでなく,他教科の観点からも評価するならば,その評価を他教科の学習に生かすことができる。児童たちの表現活動の場は,ある面では総合的に学習の成果を評価する場でもあるという認識に基づいた評価の在り方を工夫する必要がある。
   
 成果と今後の課題
  (1)  成果としては,生活科の学習そのものが地域社会とのつながりの中で成立するので,生活科の学習が総合的な学習の基礎となりうることが確認できた。生活科での体験活動の成果を「総合的な学習の時間」の「知」のネットワークに発展させることが大切である。
  (2)  生活科の学習は,「がっこうたんけん」〜「自分たんけん」という単元構成の学校が多い。地域によって様々な特性があるにもかかわらず,ほぼどこの学校でも同じような単元構成が見られるという実態は,「総合的な学習の時間」の場合にもあてはまる可能性が高いと考えられる。その意味では,地域に根ざした生活科の在り方を問い直す時期である。


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