【授業研究4】 第5学年 体つくり運動 (輪を使った運動)
(1)  はじめに
   今日の学校体育では,スポーツ教材を中心に学習が進められているが,発育・発達にきわめて大切な小学校高学年の時期に,創造力を働かせた動きづくりを取り入れた意図的な体つくり運動は,欠くことのできない学習内容である。一般的に,体つくり運動は,身体づくりとしてのみとらえられがちであり,体力要素である筋力,スピード,持久力,調整力,柔軟性などを手段的に繰り返し行わせる傾向にある。そのため,児童は,まだその意図を十分に理解することができず,意欲的な取り組みがあまりみられないのが現状である。また,同じことのくり返しにより工夫して活動することは少ない。
 そこで,児童自らが,体つくり運動のねらいと必要性を理解し,意欲的に学習するための学習過程と指導方法の工夫が必要であると考えた。まず,今の自分の能力を知り,その能力に応じて「今の力でできること」をやってみることから始め,次に体力を高めるための「動きの変化・工夫の仕方」を学ぶという学習過程を組んだ。自分の身体に目を向けて動くことの楽しさは,「運動する喜び」を感じ,その喜びが意欲的に取り組む姿勢につながるだろうと考えたのである。さらに,リズミカルな音楽を用いて律動的な動きを構成し,動きを組み合わせたり,結合させたり,発表し合ったりして変化発展させる方法を学ぶことは,創造性を培い,結果として体力を総合的に高めることができるだろうと考えた。
 今回は,体つくり運動として〔輪〕を操作する運動を取り入れた。輪の操作は,動きを工夫しやすく全身的な動きを取り入れることができ,体力を高めるにはよい用具である。個の動きの組み合わせや,集団での動きなどを取り入れて動きづくりをし,発表会での友達との関わりを大切にしたい。また,めあてを明確にして体力を高めたいと考える。
(2)  仮説について
 
  仮    説 検    証
 友達の動きを参考にしている児童は,工夫した動きづくりをするであろう。 授業後のアンケートにより,ミニ発表会が,動きづくりの上で参考になったかを動きを工夫した数により分析する。
 めあてを持てた児童は,動きを工夫するであろう。  学習カードのめあての記録と工夫した動きの数から分析する。
 児童にめあてを持たせることができると共に,友達の動きを見て参考にできる場が設定された授業は,めあてに向かって児童が練習するようになり,体力を高めようと動きを工夫するようになるであろう。  アンケート結果から,めあてに向かって努力することができたか,友達の動きを見て参考にできたかを把握する。
 また,本単元前と本単元後のアンケート結果より,動きを工夫するようになったかを検討する。
(3)  授業の実践
  体つくり運動単元計画
(4) 授業実践のまとめ
   授業分析と考察
     今回実践した授業は,1学期に実施した体力テストの結果から,今持っている自分の体力を知り,劣っている体力を高めようとすることや,更に伸ばしていこうとすることを自分のめあてとした体つくり運動である。
 小学校の5年生37名を対象に,棒・縄・輪の用具を使い,体の柔らかさを高める動き,力強い動きを高める動き,巧みな動きや持続する能力を高める動きを意識づけながら動きづくりをさせた。本単元の前半は,教師の提示した資料を基に,基本となる動きを体験し,後半には基本となる動きを組みかえて一連の運動をつくらせたり,自分達のめあてにそって動きづくりをさせたりした。また,同じようなめあてを持つ友達同士の教え合いやミニ発表会で見た動きを参考にして,動きづくりをさせた。向上心が持てるように児童の創作や工夫したことを認めたり,励ましたりする場を持つようにしてきた。
    (ア)  仮説1について
       1時間の授業の流れのはじめに,新しい動きや工夫した動きを発表する場を設けた。この発表の場で,他の児童の動きを参考にしている児童と,そうでない児童では,工夫に違いが出て,つくりだす動きの数が違ってくると考えた。
 授業後のアンケートの中に,「友達の動きを参考にしていますか。」の項目を設け,4段階で回答させた。3,4点を参考にしている群,1,2点を参考にしていない群としてに分けた。学習カードから,群ごとにつくりだした動きの数の平均数を算出した。その結果,図1のように,友達の動きを参考にしている児童は,工夫してつくりだした動きの数が多いことがわかった。図2は,児童の記入した学習カードの例である。基本となる一連の動きに対して,自分達で工夫した動きを書き込むようにさせた。
  図1 友達の動きを参考にしている 児童と動きの工夫の数について 図2 動きづくりの学習カード
    (イ)  仮説2について
       第1時のオリエンテーションの中で,体力テストの結果を振り返り,自分の体力で優れており,さらに伸ばしていきたい点と努力を要する点を,県の平均値との比較から見つけ出させ,それらを高めていくことをめあてとした。高めたい体力を「柔軟性」,「筋力」,「調整力」に大別し,同じめあてを持つ児童同士でグループを編成し,協力して動きづくりを行わせた。毎時間の授業の始めにめあてを記入させ,めあてを意識させるようにした。このように授業を進める中で,めあてがもてた児童と,そうでない児童では,工夫に違いが出て,つくりだす動きの数が違ってくると考えた。
 そこで,児童がめあてを持つことができたかを,学習カードから読みとり3段階で評価した。めあてがもてた群ともてなかった群の児童のつくりだした動きの数の平均数を算出した。その結果,図3に示したようにめあてがもてた群ともてなかった群では,つくりだした動きの数に大きな違いが見られた。めあてに対する評価とつくりだした動きの数との相関係数は,0.74であり,0.1%水準で有意な相関が認められた。めあてをしっかり持てた児童は,動きを工夫してつくりだした数が多いことがわかる。図4は,児童が記入したの学習カードの例である。この学習カードによって児童は,めあてを持ち学習に取り組んだ。
  図3 めあての持ち方と工夫の数について 図4 めあての学習カード
    (ウ)  仮説3について
      図5 めあてに向かって努力したか  本単元では,児童にめあてを持たせることができるとともに,友達の動きを見て参考にできる場が設定された授業 は,めあてに向かって練習するようになったり,体力を高めようと動きを工夫するだろうと考えた。
 そこで,自分の体力を把握し,めあてを立て,毎時間,確認することで,めあてを持って学習できるように授業を行った。また,友達の動きを参考にできるように,1時間の授業のはじめに,新しい動きや工夫した動きを発表する場を設けた。この授業の検証をアンケートによって行った。1時間目と4時間目の授業終了時に,「めあてに向かって努力したか」を4点満点で児童に聞いた。その結果を図5に示した。
 児童は,1時間目よりも4時間目の方がめあてに向かって努力するようになったことが分かる。また,「友達の動きが参考になりましたか」を4点満点で児童に聞いた。その結果を図6に示した。児童は,参考なったと強く感じていることが伺える。また,単元が進むにつれ徐々に,参考になったと強く思うようになっていることが伺える。
 上記のように,本単元は,児童にめあてを持たせることができると共に,友達の動きを見て参考にできる場が設定された授業であったことが分かる。この授業は,児童の工夫を引き出せたのかを,単元前と単元後のアンケートによって調べた。「動きを工夫して運動しているか」を,児童に5点満点で聞いた。その結果を図7に示した。単元前が,3.5点に対し,単元後は,4.3点と大きく平均値が向上している。このことから,児童が動きを工夫して運動するようになったと推測できる。めあてを持たせることができると共に,友達の動きを見て参考にできる場が設定された授業は,児童の工夫を引き出すことができると考えられる。
  図6 友達の動きが参考になったか 図7 動きを工夫して運動しているか
   成果と今後の課題
    (ア)  成果
       1時間の学習の流れのはじめにミニ発表会を設けた授業を展開したことで,他のグループの動きを見てから動きづくりに入るため,新しい動きや工夫した動きづくりをする上で参考となり効果的だということが,学習カードの記録やアンケートの結果から分かった。  また,発表が学習のはじめにあることで,授業前の休み時間から輪の操作の練習をして,よりよいものを発表しようとし,工夫している様子がみられるた。
      主に柔軟性を高める動き 主に筋力を高める動き
      図8  体育の授業では体力がつくか  「今の自分の力」を知らせ,自分のめあてをはっきり持たせることは,「今の自分」をよりよくしていこうという工夫を引き出すことになる。棒,縄,輪の用具を操作する学習は,一人一人のねらいや動きが違うため,個人差もあまり目立たず,意欲的に取り組める教材である。その中でも輪は,一人で動きを高めていくことから,二人,三人と人数に変化を加えることができる。また,前項の写真のように,同じような動きでも高めたい体力に違いが出てくることもあり,工夫を引き出すのに有効な単元であったと感じた。
 本単元終了後の休み時間に,外遊び用の輪を20本用意したところ,はじめは本授業を受けた5年生が中心になって遊ぶ姿が見られたが,徐々に他学年へと広がっていった。また,一輪車と輪を組み合わせたり,ボールと輪 を組み合わせたりと,遊びの中にも工夫する姿が見られるようになった。
 本単元は,体育本来の目的である体力を高めるといったねらいもある。そこで,児童に「体育の授業では体力がつくか」という質問を単元前と単元後にした。5点満点で回答させた。その結果を図8に示した。単元前の平均値は4.1点だったのに対し,単元後は,4.4点になった。このことからも,この授業の有効性をうかがうことができる。
    (イ)  今後の課題
       今回は,めあてをもたせることや友達の動きを参考にできる場を設定することに力を入れて,授業を進めてきた。前半,児童は基本となる動きを数多く教えてほしいと求めてきた。掲示資料やカード資料により,その要求に応えてきた。それでも,児童は,「次は何をするの」,「もっと教えてください。」と投げかけてきた。意欲的ではあるが,「教わろう」という受け身の姿勢が強く感じられた。
 しかし,後半に入ってからは,自分で練習や動きを工夫するなど,自主的な活動ができるようになり,教師からのアドバイスを要求することが少なくなった。自主的になったと同時に,急に活動量も増え,工夫も多く見られるようになった。
 今回の授業実践を通して,「子どもは,遊びの天才である。」という言葉を思い出した。与えられたものから,より楽しめるものへ,自分のためになるものへと工夫していく児童の様子を見ていると,創造性に富んだすばらしい力を感じることができた。また,その力をさらに伸ばしていかなければならないと感じた。今後も,児童の創造性を培う指導の在り方を研究していきたい。
 また,「体つくり運動」の学習においては,体力の向上もねらいの一つとなっている。今回の授業実践を通して,限られた授業時間の中だけで,十分に体力を向上させることは困難であると感じた。体力の必要性やそれを高める方法を指導していくことにより,生涯を通じて体力の維持・向上に努める児童を育成することが大切である感じている。
 加えて,運動の楽しさや一生懸命動くことの気持ちよさを経験させたり,上手になったり,力強くなるなど,向上する喜びを感じさせたりすることを今後とも大切にしていきたい。

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