【授業研究1】
  小学校第5学年
「気持ちのよい住まい方をするための工夫をしよう」における多面的に課題を追究する方法を見通すための支援の在り方
(1) 授業研究のねらい
   創造性に関する実態調査から,住まいに関しては,児童も教師も創造性が発揮しにくい内容であるととらえていることが分かった。しかし,住まいは,衣生活や食生活の中核であり,住まいの中で着ることも食べることも同時に進行する大事な内容である。加えて,今回改訂された新学習指導要領では,気持ちのよい住まい方に関して課題を選択して取り上げるよう特筆して示された内容である。
 そこで,平成10年度は,自分の生活に適した住まい方の工夫を見付け,実践の方法を考え出すための支援の在り方について研究を進めてきた。その成果は,下記のとおりである。
  情報交換の場の設定と資料の収集
     情報交換の場を設定することにより,分かりやすく,ためになる情報を提供しようとアイディアや発想を生かした資料を作成することができた。
  情報交換の形態の工夫
     1時間の授業の中に全体での発表の場と自由な情報交換の場を設けることにより,多くの基礎的な情報を得ることができ,さらに児童一人一人の興味・関心に沿った学習が展開できたため,自分の生活に適した住まい方の工夫を見付けることができた。
  よかったカ−ド・アドバイスカ−ドの交換
     よかったカ−ドやアドバイスカ−ドを活用することにより,お互いの活動を認め合い,称賛し補足し合うことができ実践の方法を考え出すことができた。
 課題として,物事を多面的に検討し,他のことと関連付けて考えることや解決の見通し段階や追究段階の研究,自己評価や相互評価の内容の検討などがあげられた。
 本年度の授業研究では平成10年度の実践を踏まえ,昨年度と同じ領域で,物事を多面的に検討し,他のことと関連付けて考えるための支援の在り方を研究していくこととした。小学校第5学年「気持ちのよい住まい方をするための工夫をしよう」の題材では,気持ちよく居心地のよい状態で,周囲の人にも迷惑をかけず調和している状態とはどういうものかを多面的に検討できるように,「人」と「もの」に焦点を据えて,課題解決の見通しをもたせていきたい。
(2) 多面的に課題を追究する方法を見通すための手だて
  情報獲得の場の工夫
     物事を多面的に検討しながら,それぞれの課題を解決するための見通しをもつためには,適切な情報を得ることと,その取捨選択が大切であると考えた。そのための方法として,ヒントコ−ナ−を設置し,活用を図れるよう配慮する。情報を獲得するにあたっては,ヒントコ−ナ−の紹介として“お助けマップ”を作成し,コ−ナ−を回る際の参考にするように工夫する。内容としては,A.インタ−ネットでの検索,B.ビデオ,C.資料(参考図書,パンフレットなど)D.作品例(リサイクル),E.ゲストティ−チャ−(生活環境課の方)の5つである。提供された情報をいかに取捨選択して課題に直結できるように獲得できるか,児童はその中から自分にも取り組めそうな内容を見付けだし,他のことと関連付けて考えることができるようにする。そして,その後の調べ学習の見通しをもつことができるようにしたい。
  ワ−クシ−トの工夫
     気持ちのよい住まい方をするためには,問題点を様々な面からとらえると同時に,様々な立場からも考えさせることが大切であると考え,ワ−クシ−トを活用することとする。まず,5つに編成した班ごとに,どんな立場から考えたらよいかを考えさせ,「人」とのかかわりを認識できるように工夫する。さらに,調べ方と発表の仕方へとつなげていけるようにする。こうした意図的な意識付けをすることで,物事を多面的に見る目が養えると考える。
  グッドカ−ド・ワンポイントアドバイスカ−ドの活用
     昨年度の実践により,よかったカ−ドやアドバイスカードの活用は,好ましい人間関係を培い,学習への意欲付けと相互評価として有効であることが分かった。そこで,本研究でも引き続き,グッドカ−ドやワンポイントアドバイスカ−ドを用いて,お互いのよさを認め合い,学習への満足感や成就感が得られるようにする。また,認められたことやアドバイスされたことをもとに,次時への活動意欲を高め,課題追究への見通しを確かなものとするようにしたい。
(3) 授業の実践
  題材  気持ちのよい住まい方をするための工夫をしよう
  題材の目標
    きれいで気持ちのよい住まい方をするために,自分の学習課題を見付け,解決に向けて進んで取り組もうとする。 (関心・意欲・態度)
    気持ちよく住まうために,自分の持ち物の整理,整とんや清掃,ごみ処理や不用品の活用などについて工夫することができる。 (創意工夫)
    身の回りの整理整とん及び材質や汚れに応じた清掃,不用品の活用ができる。 (生活の技能)
    清掃,整理・整とん,ごみや不用品を適切に処理していくことによって,快適で気 持ちよく住めることが分かる。 (知識・理解)
  学習計画
    学習計画
  本時の学習
    (ア) 目標
      気持ちのよい住まい方をするためには,どんな工夫をすればよいかを課題別グル−プで話し合い,解決の見通しを立てることができる。
    (イ) 展開
    展開
  授業の実践における児童の反応
抽出児童 A子 家庭科に対する興味・関心が高く,知識も豊かである。
B男 独自の行動をとりやすく,話合いには興味をもった時のみ参加する。

学習の流れ 全体の児童の様子 抽出した児童の様子
A 子 B 男
1  本時の学習課題を確かめる。
2  学習の進め方について話し合う。
真剣に話を聞き,課題解決のためにどうしたらよいか考えているようである。
T2,GTの紹介に目を輝かせ,本時の学習手順の話に聞き入る。
課題に対してうなずきながら,しっかり話を聞いている。
一番前に座り,確認しながら聞いている。
下を向き,一心にズボンのひざのほつれを直している。
班の人達と一緒に,後列に立って話を聞いているが落ち着かない。
3  調査方法と発表方法を話し合う。
グル−プごとに,各コ−ナ−を回り始める。
1班の友達と一緒にインタ−ネットの検索に行く。指導を受けながら,画面を見ていたが,4分が経過したので途中でやめて戻る。
資料コ−ナ−へ行き,お家の方のワンポイントアドバイスに目を通す。大事な所に赤線を引きながら読み進める。1班というサインも書いている。
まとめの時間になったので,席に戻ってワ−クシ−トに記入する。
記録係が発表用小黒板に記入しているのを見て,アドバイスをする。
再度,資料コ−ナ−へ行き,書いてある内容を確認する。
リサイクルコ−ナ−へ行き,調べる。
ビデオコ−ナ−へ行き,メモを取り出すが,書かない。
GTの所に行き,あらかじめ用意しておいた質問を始める。
瀬戸物のことを聞き,くだいてうめることを教えてもらう。メモした後,GTにみせる。生ごみの簡単な処理方法や電池の出し方を聞いて,メモする。自分の家にも一杯たまっていることを伝えると,種類ごとに出さないとだめなことや,まちがった物にはシ−ルをはることを教えてもらう。満足そう。
意欲的な様子が伺える。
資料コ−ナ−へ行き,熱心に見入っている。やる気が見られる。
ヒントコーナーの活用の様子
ヒントコーナーの活用の様子
4  発表し合い,感想や意見を述べ合う。
5  振り返りカ−ドで自己評価をする。
各班の代表者が,前に出て決まったことを発表する。(調べ方と発表方法)
各自,本時の学習を振り返り,自己評価と次時の学習予定を記入する。
発表者の方をきちんと向いて聞いている。拍手も忘れない。
観点ごとに,5点満点で5・4・5を書き込む。次時は,町に出てインタビュ−してまとめたいと記す。
発表にも興味を持ったらしく,グッドカ−ドに称賛の言葉を書いてはる。
観点ごとの評価は,4・4・3と記入する。GTの方にもう一度インタビューしてみたいと記す。熱意が伝わる。

(4) 授業の結果と考察
  情報獲得の場の工夫 資料1 ワークシートの活用例
     トイレピカピカ大作戦グループは,トイレ掃除の仕方をインターネットで検索したところ,図解入りの詳細な説明が映し出され,「こんな方法でやるときれいになるね。」などと驚嘆の声を上げていた。また,ごみ処理グループは,GTと直接話をすることで,ごみを処理する人の苦労について考えたり,種類によって処理方法が違ったりすることを再認識し,物事を多面的に見る目が養われた。特に,住まいに対する関心が希薄であった抽出児B男は,GTの説明を聞いたり,質問をしたりすることで,自分にも取り組めそうな内容を見つけ出していった。
  ワークシートの活用
     班ごとに,まずどんな立場から考えたらよいかを考えさせるようにした。この意識付けを意図的に行ったことによって,自分と多くの人とのかかわりに気付き,それぞれの立場から物事を考えていこうとする取り組みが見られた。さらに,調べ方と発表の仕方を話し合うことにより,活動の見通しと意欲をもつことができた。
  グッドカ−ド,ワンポイントアドバイスカ−ドの活用
     グッドカ−ドに書かれた内容として,「劇にして発表するのは,わかりやすくていいね。劇を見るのを楽しみにしています。」「調べたことを実験して,ビデオにとるなんてものすごくいい発想だと思いますよ。」などが出された。また,考えの中にもう一歩という状態である場合は,ワンポイントアドバイスをすることとした。カ−ドの活用によって,お互いのよさを再認識し,自分たちの発表に 生かしてさらによいものにしていこうとする意欲や態度が見られた。
  授業後の調査結果から
     本時の振り返りカ−ドの中に「もっとたくさん資料を集めて,わかりやすくまとめたい。」「町に出て,インタビュ−してまとめたい。」「早く,リサイクル製品を作ってみたい。」などの考えが書かれていた。また,授業後はすぐに,訪問インタビュ−の計画を立てている班もみられ,実践への意欲が伝わってきた。
(5) 授業研究の成果と課題
   グル−プによる問題解決的な学習を取り入れ,さらに立場を考えた追究方法を組み入れたワ−クシ−トを活用することで,物事を多面的に検討し,他のことと関連付けて考えるという研究の視点が明確になり,調べ学習が円滑に進んだ。
   資料やGT,インタ−ネットの検索,ビデオなどのヒントコ−ナ−を設置したことは,見通す段階としての情報獲得に大変意義深いものとなった。本時での生き生きとした活動は,次時からの調べまとめる学習への意欲付けとなった。
   グッドカ−ドの活用は,よさを見極める目を養うとともに,人間関係の潤滑油的役割をしたかと考える。 ワンポイントアドバイスカ−ドも,よさを認めた上での助言なので,素直に聞き入れることができていた。相互評価としても,生かすことができた。
   解決への見通しをもつ段階で,児童一人一人の驚きや発見を大切に扱うことは,次時の調べ深める段階での学習に大きく関与することを実感した。今後は,教師自身も物事を多面的にとらえながら適切な支援ができるよう,さらに工夫を試みたい。

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