【授業研究2】
  中学校第2学年
「わたしたちの六段」における一人一人の感性と創造性を高める指導の在り方
(1) 授業研究のねらい
   前年度より生徒の創造性を「新しい状況に出会った時,これまでに身に付けてきた知識や経験を十分活用して,新しい解決をしようとする態度や能力」ととらえ,感性と創造性を培う学習指導を研究してきた。さらに,「創造的に表現する能力」とは「基礎的な表現の技能」を基盤として,イメージをふくらませたり,表現に工夫を加えたりする能力であると考えた。
 そこで,我が国の伝統音楽の中で,箏を扱った表現活動と鑑賞活動の関連を図ることを通して,一人一人の感性や創造性を高めることができるであろうと考えた。そのためには,自分自身が演奏者の立場に立って音楽を聴いたり,自ら感じた音や音楽を表現したりすることをできるようにさせることが大切であると考え,授業研究で明らかにしていく。
(2) 一人一人の感性と創造性を高めるための手だて
  指導計画の工夫
    (ア) 表現活動と鑑賞活動相互の関連
       音楽を聴くことを音楽科学習の中の鑑賞活動として,能動性と積極性を備えたものにするために,生徒自身が見通しをもてる学習計画を組み立てた。さらに,鑑賞のみに偏らないよう「歌う」「奏する」「つくる」といった学習をともに関連づけながら包括的に学習させたいと考えた。
 そこで,箏曲「六段の調べ」を地域の箏奏者の生の演奏や視聴覚機器等の鑑賞から,曲にふさわしい音色や奏法に気付き理解した上で,箏を含めたアンサンブルの表現活動を加え進めていく。
    (イ) 和楽器との出会い
       我が国の伝統音楽を扱う場合,これまでは映像を伴う鑑賞という形態で行ってきていた。しかし,本校の実態調査によると,我が国の伝統的な楽器を演奏したことがない生徒は82%,箏を演奏したことがない生徒は92%という結果が出ており,我が国の伝統音楽や楽器に触れる機会もほとんどなく,演奏したこともないという生徒が多いことが分かった。
 箏は我が国の伝統的な楽器の中で初歩の段階から取り組みやすく,調弦さえすれば比較的簡単に箏らしい日本的な音色を出すことができ,授業に取り入れやすいと考えた。
 そして,今年度は様々な好条件が重なり,箏の体験学習の授業が可能になり,積極的に進めていきたいと考えた。
    (ウ) ゲスト・ティーチャーとの出会い
       音楽における感性を音楽的感受性ととらえ,感性を刺激するために,地域の箏奏者に生徒の目の前で「六段の調べ」や「さくらさくら」を演奏していただき,箏の音と出会わせた。そうすることが生徒一人一人の心を揺さぶるよい機会であると考えたからである。
 また,授業にもゲスト・ティーチャーとして招き,何度も本物の音や表現にふれさせることにより,感動体験を積み重ね,豊かな感性を育成したいと考えた。
 そして,生徒が今以上に地域の人に目を向け,そのよさを知り,自分の身のまわりには様々な音楽があるのだということにも気付くことにより,以後の音楽活動への興味・関心へつながるものとしたい。
    (エ) 学習カードの活用
       創造的な学習を展開していくためには,学習の見通しをもつことが大切で,課題づくりから音楽づくりまでの学習のあとが残るようなカードを用意した。題材のめあてや本時の自分たちの目標をしっかりともたせるためには,各グループがよく話し合い,自分達なりのことばでめあてを立てさせ,記入し,それを授業の中で追究させたいと考えた。
 また,その中には自分の思いを文字・図形譜・音符で表現できるような空間も大切にし,これまでの既習内容や体験を整理し,生かすことができるようなものにした。そして,自己評価・相互評価をさせることによって,振り返ったり友達のよいところに気付いたりして,次の学習につながるようにしていきたいと考えた。
  グループ学習の工夫
    (ア) グループづくり
       グループ編成は男女混合5人から6人で,生徒の思いを大切にしながら意図的に行った。そして,平調子で七の弦から始まる「さくらさくら」の曲で箏を二面取り入れ,それを主体として楽器を選択させていきたいと考えた。その他の楽器はこれまで学習してきたものを生かし,身のまわりのものや音素材にも目を向けるよう促した。しかし,あくまでも我が国の伝統音楽であることを意識させ,つくり上げていく過程を大切にしたいと考えた。
    (イ) イメージづくり
      グループで友達の音を聴きながら練習しているところ  基礎的な能力とは,生涯にわたって楽しく充実した音楽活動ができるための基となる能力を意味するが,それは音楽を形づくっている諸要素を感受する能力でもある。今まで体験してきたものや新たにゲスト・ティーチャーやLD鑑賞で得た「おもしろさ」「快さ」「美しさ」に直接触れ,試行錯誤の連続の中で音楽を求めていこうとする生の姿を大切にしたい。
 また,自分らしいイメージを自分らしい方法で仲間とともに表現するには,互いのイメージを受容し合うことが大切である。そこで,お互いに聴き合うことを大切にし,他の生徒やグループのよさを自分達にも取り入れよい刺激の場としても設定していきたい。
 教師は,場の設定と試行錯誤の時間を与えるとともに,自らが生徒なりの表現をあたたかく受容するという姿勢で支援していきたい。
(3) 授業の実践
  題材 わたしたちの六段 (箏との出会い)
〜ゲスト・ティーチャーにわたしたちの箏の音を伝えよう〜
  学習の流れと評価 (5時間扱い 本時は第三次の第2時)
    学習の流れと評価
  本時の学習
    (ア) 目 標 自分たちの「さくらさくら」を箏をはじめとする,それぞれの楽器のよさを生かしながら工夫して合奏することができる。
    (イ) 展 開
    展開
(4) 授業の結果と考察
  題材の精選
     「我が国の伝統音楽の特質を理解し,それを美しいと感じる心を育成する」というねらいを達成するために,鑑賞教材「六段の調べ」と器楽教材「さくらさくら」を組み合わせた。
 題材の導入でゲスト・ティーチャーの演奏を鑑賞し,次に視聴覚機器により箏の形態や奏法等,箏について学習した。生徒全員が箏にふれ,七の弦から始まる「さくらさくら」(平調子)をひき,思ったより簡単であることを実感することができたようであった。さらに,その学習をふまえ,次の「箏を含めたアンサンブルをしよう」では,表現形態や表現方法を選択し,意欲的につくっていくことができた。
  ゲスト・ティーチャーとの出会い
    アンサンブルの発表をしているところ  目の前で生の演奏を聴くことは,生徒が我が国の伝統音楽を体全体で感じ,その存在を身近に感じる上では有効な手だてであった。 生徒の箏への印象は様々で「美しい安らげる音である」「何面も使って演奏しているように聴こえた」とか,音色や技法にも驚いていた。そして,自分も箏にふれてみたい,という表現への意欲ももつことができた。
 次に授業へもゲスト・ティーチャーに参加していただき技法のみならず幅広く助言していただいた。そして,生徒自ら質問したり範奏をお願いしたりするなど,主体的に学習する姿を見ることができた。
  音づくり・音楽づくり
     各グループとも様々な「さくらさくら」ができあがった。自然音(日本らしい音)を組み入れ風鈴をうちわで扇ぎ音を探す生徒。家から竹を持参し笹の葉をバックミュージックにした生徒。家族の篠笛や尺八を借り,練習する生徒。また,コンガを手で押さえ,響きを和楽器の響きに近づけようとする生徒など,楽器の選択も個性的なものが多かった。そして,生徒が自由な発想を楽しむことができ自分たちだけの「さくらさくら」をつくりあげる体験ができた。
 また,学習カードには,ゲスト・ティーチャーの演奏の感想や毎時の反省など,一人一人の思いや願いがたくさん書かれていた。メモの欄には五線譜や図形譜等,それらを訂正し何度も書き直した物も記されており,意欲的な試行錯誤のあとが見られた。
(5) 授業研究の成果と課題
   表現・鑑賞活動を関連づけながら授業を展開し,箏の音を聴いたり実際に演奏したりすることにより,表現の多様さ,和楽器の音色やよさに対する興味・関心は高まった。表現活動と鑑賞活動は常に一体化しつつ指導することが大切であると実感した。
   グループで音楽を何度も練り直したり,友達の発表を聴いたりすることにより,自分や友達の発想やよさを感じながら,創造的な活動を展開することができた。
   今回の授業研究では,自己評価・相互評価を組み入れてきたが,さらに感性や創造性の育ちを把握する評価について工夫していきたい。

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