【授業研究1】
  小学校第3学年
「お話に音をつけよう」における一人一人の感性と創造性を高める指導の工夫
(1) 授業研究のねらい
   昨年度までの研究において,身体表現や街にあふれるいろいろな音の模倣等による創作的な活動を行う中で,徐々に児童の創造性は培われてきた。今年度はさらに一歩進んで,一人一人の感性・創造性を育み,個性的,創造的な学習活動をより活発に行うことができるようにするためにはどうしたらよいかということに重点をおくことにした。それには,表現と鑑賞の関連を図ることにより,基礎的・基本的事項を主体的・創造的な活動に生かすための資質,能力としてとらえることが重要であると考えた。
 そこで,本研究は児童が楽しく音楽にかかわり,生涯にわたって音楽に親しむために,基礎的・基本的事項を大切にしながら,感性と創造性を高めていくことをねらいとし,授業実践を行い,目標に迫ろうとするものである。
(2) 一人一人の感性と創造性を高めるための手だて
  題材及び教材選びの工夫
    (ア) 横断的・総合的な学習を通して
       教材の選定に関しては,他教科や総合的な学習でこれまでに取り扱ったものでも児童の興味・関心をひく教材やテーマがあれば,柔軟な考え方で取り組む姿勢が大切であると考える。このような考えから,普段からジャンルにとらわれずに幅広い分野からよい教材を精選し子供たちに与えるようにしている。そこで,今回は国語科で学んだ「三年とうげ」という教材を取り上げ,その話に音楽をつけてより一層楽しい学習活動にし,音楽のもつ重要性に気付かせたいという目的で取り組んでみることにした。この教材は話の内容も機知に富み,情景が豊かにイメージでき,挿し絵も場面ごとに工夫が凝らされている教材である。また,今回子供たちからアンケートをとったところ,音づくりをしてみたい既習教材の中で,一番関心の高かった教材でもある。
    (イ) 表現と鑑賞の関連から
       小学校低学年の子供たちは,鑑賞の授業においても普通教室の小さなCDプレーヤーを聴いて終わってしまうことが往々にしてある。そこで,日頃から,子どもといえども侮らず,芸術的に価値のあるものや崇高なものに,よい音や画像によってふれさせるように心掛けている。はじめによいものにふれたり聴いたり味わったりすることで感動を覚え,それを目指して自分たちもチャレンジしてみたい,努力してみたいという自発的な学習意欲を喚起することは非常に大切なことである。そして,よい教材に出会ったときに,しばしば子供たちの目が輝いているのに気付くことがある。
  音楽づくりの工夫
    (ア) リズムづくり
       付点の付いたリズムやシンコペーションのリズム等を,子供たちが曲をつくる段階において,使いこなすことは容易なことではない。そこでリズムは全音符,二分音符,四分音符,八分音符程度の簡単なリズムの組み合わせにとどめ,あまり複雑な音符は避けるようにした。それは小学校3年生という発達段階を考慮したためと,八分音符までを使えば十分にリズミカルなものがつくれるためである。また,「タン タカ タン ウン」といった,リズムを表す擬音を工夫し,つくったリズムをまず耳で覚える方法を取り入れてみた。つまりソルミゼーション(声による読譜)である。これは,ジャズでいうところのスキャット,日本の箏や三味線を覚えるときに用いる唱歌にあたる。
    (イ) メロディーづくり
       小学校3年生では,通常使われる西洋音階でメロディーをつくる際,選択する音の数が多すぎ,かえってメロディーをつくりにくいのではないかと考え,今回は日本の代表的な音階である陽音階(5音から構成される)を使ってのメロディーづくりを試みた。つまり鍵盤楽器の黒鍵のみを使用したメロディーづくりである。5つの音を順に叩いてみると自然に日本的なメロディーがイメージされるので,子供たちにとっては7音を使う西洋音階よりもはるかにメロディーづくりがしやすい。これは子供たちの感性や創造性を引き出すのに非常に効果的であると考えた。また,今回取り扱った「三年とうげ」も民話風の内容なので日本の陽音階がよく合うということもあり,陽音階を取り上げてのメロディーづくりをすることにした。
    (ウ) 楽譜づくり(学習カードの活用)
       小学校3年生の段階ではまだ五線譜に音符を書くことができる児童は非常に少ない。そこで,今回は小学校2年生までに音楽の教科書等によく掲載されていて子供たちにも馴染みの深い図形譜や絵譜を使うことにした。ただ,ここで留意したことは,将来的に絵譜から五線譜に移行しやすいように小節線や拍を意識した書き方のできる絵譜にしたことである。楽譜が読めること,楽譜を書くことは音楽の基礎・基本の一つである。最終的には五線譜の読み書きができるようになるための,発達段階に即した導入としていきたい。
   基礎的・基本的事項についての考え方
     子供たちは音づくりをするにあたって,音符が書けない,分からないというところでとまどっている現状がある。これまでの学校教育では,基礎的・基本的な内容を一定の知識や技能としてとらえ,身に付けさせることを重視する考え方が一般的であったが,これからの教育においては主体的,創造的に生きることができる資質や能力の育成を基本的なねらいとしている。従って基礎・基本についてもこのような考え方にたって,子供たちがこれからの時代に主体的,創造的に生きていくのに必要な資質,能力としてとらえることが大切である。知識や技能面のみを重視することなく,それらを一つの資質としてとらえ指導していく姿勢を教師の側がもっていなければならないと考える。場合によっては表現活動をしていく中で,より豊かな表現をするためにはという観点から,基礎・基本的な内容にフィードバックしてもよいのではないだろうか。すなわち子ども一人一人の自己実現に資するように,個に応じ個を生かすような音楽的な資質や能力を高めていくことが大切であると考える。
(3) 授業の実践
  題材 お話に音をつけよう
  学習の流れと評価(9時間扱い 本時は第三次の第2時)
    学習の流れと評価
  本時の学習
    (ア) 目標  各場面の様子や人物の気持ちを想像し,イメージに合う音を効果的に工夫することができるようにする。
    (イ) 展開
    展開
(5) 授業の結果と考察
  題材に基づいた教材の精選
     単に音楽の教科書のみにとらわれることなく,子供たちが慣れ親しんでいる童話や民話,他教科で学習したもの等,あらゆる分野から音素材として用いやすいものを選ぶことに重点をおいた。それは,意欲を引き出す教材を精選することが今回の学習の大きな鍵になると考えたからである。今回取り上げた「三年とうげ」は子供たちの興味・関心も高く,国語科の学習においても意欲的に取り組んだ教材であり,音楽をつくる上でも非常に適した教材であった。この教材を選ぶことによって子供たちの「ぜひやってみたい」という自発的な学習意欲が高まった。
  話の場面によるグループ編成
     グループ編成にあたっては,まず,国語科での既習教材である「三年とうげ」において,「この場面に音楽や効果音をつけてみたい。」という部分を抽出し,希望をとり,グループ編成を行った。いかに子供たちの意欲を失わせずにグループ編成を行うかを常に念頭におきながら子供たちとの話し合い活動の充実に力を注いだ。その結果,5人〜6人の編成で6グループが一番よいという結論が子供たちの方から導き出せた。
  発達段階に合ったメロディーづくり
    中間発表のようす  メロディーをつくるにあたり,小学校3年生ということもあり,日本の陽音階のみを用いてメロディーをつくりやすくすることで比較的容易に音楽づくりに取り組むことができた。子どもたちは「私にもつくれるんだ」という自信をもつことができた。このような体験を,他の教材曲にも生かしていきたいという意欲につながれば,子供たちの中に,さらに豊かな感性や創造性がはぐくまれていくものと考えられる。
  学習カードの活用
     図形譜や絵譜を書き込むカードとともに,「ふりかえりカード」の活用によって自分の行ってきた学習活動の確認ができるように配慮した。また,この「ふりかえりカード」の中に教師からの共感的なコメントを入れることによって,子供たちの次時への学習意欲を喚起させるよう努めた。
(5) 授業研究の成果と課題
   ねらいに応じた題材に基づく教材の精選を行ったり,グループ編成を工夫することによって,子供たちは生き生きと活動し,学習意欲を高めることが分かった。
   音楽づくりにおいて,発達段階を考慮したリズムパターンや使う音を限定することによって,子供たちは無理なく楽しみながら創造的表現を深めることができた。
   今後も,音楽科学習指導にあたっては幅広い視野と柔軟な態度で取り組んでいき,豊かな感性と創造性を高めてゆくことにより,子供たちに音楽の楽しさを味わわせ,生涯にわたって音楽に親しむことを促す指導の在り方を究明していきたい。

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