B校の例
(ア)  はじめに
 本校は,自然環境にとても恵まれたところに立地する,生徒数が284名の小規模の中学校である。生徒は全体的に穏やかで素直な生徒が多い。反面,自ら考え判断し実行するという主体性や積極性に欠け,指示を待って行動することが多い。
 体力・健康面から見てみると,スポーツテストの結果や生活習慣面の実態調査から次のような実態があがった。
柔軟性が劣っている。
筋力が劣っている。
持久力が低下している。
就寝時間が遅く,朝の目覚めが悪い。
食生活の乱れ。
 これらのことから,自分の体力や身体に関心を持たせ,体力の向上・健康の保持増進に主体的に取り組めるような指導法の工夫改善をするとともに,生涯体育・スポーツへもつなげていきたいと考えた。
(イ)  第1学年の例
 a 体操単元計画
中学校 第1学年○組  保健体育科学習指導案
指導者 ○○ ○○
  1. 単元名     体 操
  2. 運動の特性
    (1)  一般的特性
     体の動きを維持したり,高めたりすることをねらいとする運動である。
     目的に応じて,体の動かし方を決め,能力に合わせて行う運動である。
     各自の年齢・性別・体力・運動能力に応じて,目的を達成するのに効果的な運動を選んだり,動きを工夫したりすることができる。
    (2)  生徒からみた特性
     目的に応じた動きを自分たちで考え,工夫したり選んだりして実践できる楽しさがある。
     他人との力に関係なく,自己の能力に応じて行えるため,充実感や満足感を味わうことができる。
     体が痛くなったり,疲れたり,息が苦しくなるなどの肉体的苦痛がともなう。
  3.  生徒の実態(1年1組 男子 13名  女子 14名 計27名)
     本校の生徒は,これまでに体操の授業を経験したことは少なく,体操といえば,準備体操・ラジオ体操・県民体操ぐらいの知識しかない。
     トレーニング体操については,部活動で,補強運動として経験している生徒は多いが,正しい行い方や効果については理解していない。ストレッチ体操は,各運動領域において,準備運動の中に組み入れて行っているので,ある程度の仕方は理解している。
     そこで,本単元では,自己の身体に関心を持たせるとともに,今の自分の体力の現状を理解させ,体力を高めるためには,どのような運動をどのように実施すればよいのかを知らせることをねらいとしていきたい。
  4.  教師の授業への意図
     体操は,体力を高めることを直接ねらって行われる運動なので,身体の動きや働きを良くし,向上させる必要感を持たせて行わせることが大切になってくる。したがって,学習の始めの段階で,体育に関する知識を科学的・合理的に照らし合わせながら指導することで意欲づけを行い,学習への興味・関心を持たせていきたい。また,実践においても,回数・時間的な課題を与えることや体力つくりの効果を測定評価することで,単純な運動にも意欲的に取り組めるようにさせたい。更に,各種の体操の目的や仕方などを理解するとともに,日常生活の中に自分にあった体操を積極的に取り入れて,実践できるようにさせたい。
  5.  学習のねらい
    (1)  自分の能力に応じた課題を設定して,課題達成のために友達と教え合ったり助け合ったりして学習できる。 (関心・意欲・態度)
    (2)  自分の力にあった課題を持ち,体力を高めるための体操を構成したり,計画を作成したりすることができる。 (思考・判断)
    (3)  各種の動きをねらいをもって適切に行い,その効果を判定評価しながら体力の向上を図ることができる。 (技能)
    (4)  自分の身体に関心を持ち,体力を高めるための運動の意味や価値について理解するとともに,各種の運動の特性や動きの行い方・練習の進め方がわかる。 (知識・理解)
    ◎ 評価目標
    関心・意欲・態度 思 考・判 断 技  能 知 識・理 解
    @  自己の体力に関心を持ち,課題達成に向かって意欲的に取り組もうとしている。
    A  協力し励まし合いながら学習を進めている。
    B  自己の体力の現状から課題を持つことができる。
    C  動きや練習方法を工夫することができる。
    D  各体操の基本的な行い方を身につけることができる。
    E  自分の課題とする体力を伸ばすことができる。
    F  体操の必要性や効果を理解できる。
    G  各体操の特性や基本的な行い方が理解できる。


6 学習の道筋と時間配分
学習の道筋と時間配分1
学習の道筋と時間配分2 授業風景1
授業風景2
授業風景3
   b 体育に関する知識学習指導案
<本時の学習>
(1)  体力を高めるための運動の意味や価値について理解するとともに,自分の体力を知ることができる。
(2)  展開
展開
   c 授業の分析と考察
 身体の働きや動きの習熟及び体力の向上を直接のねらいとしている体操では,何よりもまず,体力とは何かを理解しておくことが必要になってくる。この考えから,単元のはじめに体育に関する知識学習を実施することにした。そこで,体力についてや体操の特性,体力を高めるための運動の意味や価値,必要性について理解をはかった。その結果,体力についての理解ができ,自分の体力についての関心や体力を高めようとする意識を持たせることができた。
 学習をはじめる前に,自分の現在の体力を知るということから,ミニスポーツテストを実施し,自分の体力の優れているところ,劣っているところを認識させた。そのことによって,自分の体力についての関心や体力を高めようとする意識を持たせることができ,主体的に体力の向上に取り組むことができるようになってきた。
 学習のねらい,内容,過程,学習のそれぞれのステップに応じた展開ができるような単元計画を立てた。さらに学習ステップは3年間を見通した内容にしたことから,1年生の学習では,体操についての理解が十分でないので,学習資料などを使いながら体力を高めるための運動の方法とその正しい行い方を具体的に説明したり,実践したりすることでねらいに即した体力つくりの運動を準備できる能力を養うことを目的として取り組んだ。その結果,自分の体力について課題を持ちながら学習し反省することで,自分にあった運動種目の選択や組合せなどを工夫しながら取り組むことができた。更に,運動やスポーツが苦手で体育の授業にあまり積極的でなかった生徒が,自分の体力向上の目標をもって,意欲的に活動できるようになった。
  <体操学習に対する生徒の実態>

Q1 毎朝,朝食をきちんと食べていますか。
Q2 睡眠は,十分にとれていますか。
Q1 回答グラフ Q2 回答グラフ
Q3 自分の体力について関心がありますか。 Q4 将来までスポーツを楽しみたいですか。
Q3 回答グラフ Q4 回答グラフ
Q5 柔軟性はあるほうだと思いますか。 Q6 調整力はあるほうだと思いますか。
Q5 回答グラフ Q6 回答グラフ
Q7 筋力はあるほうだと思いますか。 Q8 持久力はあるほうだと思いますか。
Q7 回答グラフ Q8 回答グラフ
Q9 柔軟性を高めるための運動を知っていますか。 Q10 調整力を高めるための運動を知っていますか。
Q9 回答グラフ Q10 回答グラフ
Q11 筋力を高めるための運動を知っていますか。 Q12 持久力を高めるための運動を知っていますか。
Q11 回答グラフ Q12 回答グラフ
Q13 家庭で体力つくりの運動を行っていますか。
Q13 回答グラフ
 授業後のアンケート調査結果を見ると,Q3の,自分の体力の関心度については,4月は25%の生徒しか関心を持っていると答えていなかったが,11月には,60%を越える生徒が関心があると答えている。これは,授業の中で,実践した体力つくりの効果を測定評価する時間を設け,体力の自己診断をさせた結果と考えられる。
 Q5〜Q8の体力の向上については,わずかの伸びしか見られなかったが,これは,取り組んでからまだ期間が短いということと,体力つくりの習慣化がまだ図れていないということが考えられる。体操の授業の中だけで体力を高めることはできないので,学習したことをもとに他の領域や日常生活の中で,体力つくりに積極的に取り組んでいけるような意欲づけを図っていく必要性を感じた。
 Q9〜Q12の体力を高めるための運動の方法については,11月には90%を越える生徒が知っていると答えている。これは授業の中で,体力を高めるための運動の基本的な行い方を指導してきた結果と考えられる。
 動きづくりのための視覚的資料としてビデオを活用した。これは,生徒の活動意欲を高めるためにも有効であった。
(ウ)  第3学年の例
 a 体操単元計画
中学校 第3学年○・○組 体操単元計画案
指導者 ○○ ○○
  1. 単元名     体 操
  2. 運動の特性
    (1)  一般的特性
     体の動きを維持したり,高めたりすることをねらいとする運動である。
     目的に応じて,体の動かし方を決め,能力に合わせて行う運動である。
     各自の年齢・性別・体力・運動能力に応じて,目的を達成するのに効果的な運動を選んだり,動きを工夫したりすることができる。
    (2)  生徒からみた特性
     目的に応じた動きを自分たちで考え,工夫したり選んだりして実践できる楽しさがある。
     他人との力に関係なく,自己の能力に応じて行えるため,充実感や満足感を味わうことができる。
     体が痛くなったり,疲れたり,息が苦しくなるなどの肉体的苦痛がともなう。
  3.  生徒の実態(3年○・○組 男子 33名)
     本校の生徒は,これまでに体操の授業を経験したことは少なく,体操といえば,準備体操・ラジオ体操・県民体操ぐらいの知識しかない。
     トレーニング体操については,部活動で,補強運動として経験している生徒は多いが,正しい行い方や効果については理解していない。ストレッチ体操は,各運動領域において,準備運動の中に組み入れて行っているので,ある程度の仕方は理解している。調整力を高める運動となると半分の生徒はその方法を知らない。持久力を高める運動についても,持久走とか縄跳びぐらいしか知らないようである。
     そこで,本単元では,オリエンテーションの中で,体力づくりに対する個人のねらいやめあてをしっかりともたせるとともに,目的に応じた運動の正しい行い方や運動プログラムの作成の仕方を指導し,体力つくりの習慣化を図っていきたい。
  4.  教師の授業への意図
     体力を高めることを直接のねらいとしている体操では,授業の中で「ねらいに即した体力つくりの運動を準備できる能力」「体力つくりの計画を作成できる能力」「体力つくりを実践し,その効果を測定評価できる能力」を養っていくことが大切である。
     そこで,まず,自分の体力を知ることから授業を進めて,自分の身体の動きや働きを良くすることの必要性を持たせたい。更に,目的に応じた運動の仕方を提示することで,自分にあった運動を選択したり,組み合わせたり,発展させたりしながら主体的に学習ができるようにさせたい。また,運動プログラムの作成や計画の作り方の基本原則を授業の中で指導することで,体力つくりの生活化を図り,積極的に実践できるようにさせたい。
  5.  学習のねらい
    (1)  自分の能力に応じた課題を設定して,課題達成のために友達と教え合ったり助け合ったりして学習できる。 (関心・意欲・態度)
    (2)  自分の力にあった課題を持ち,学習の仕方や計画を工夫できる。 (思考・判断)
    (3)  各種の動きをねらいをもって適切に行い,体力の向上を図ることができる。 (技能)
    (4)  運動の特性を理解し,各種の動きの行い方や練習の進め方がわかる。 (知識・理解)
    ◎ 評価目標
    関心・意欲・態度 思 考・判 断 技  能 知 識・理 解
    @  自己の体力に関心を持ち,体力向上を目指し,それを習慣化できるようにしている。
    A  協力し励まし合いながら学習を進めている。
    B  発達段階や能力に応じて,自分の健康や体力の課題を持つことができる。
    C  目標達成する有効な運動を準備・工夫することができる。
    D  体力つくりのための計画を作成・実践し,体力を伸ばすことができる。
    E  実践した体力つくりの効果を測定評価することができる。
    F  体力つくりの必要性や効果を理解できる。
    G  運動プログラムや計画の基本的な作成の仕方が理解できる。

学習風景1 学習風景2
6 学習の道筋と時間配分
学習の道筋と時間配分1
学習の道筋と時間配分2
   b 授業の分析と考察
 体操に対する意識の変容を,授業後の生徒の感想から見てみると,「いろいろな動きを考えたり,プログラムを組み立てたりして楽しかった。」「体操プログラム作りはたいへんだったが,良くできた。」等の感想が得られた。これは,部活動の終わった3年生が,自分の体力についての課題をもって学習に取り組んだり,その課題を達成するための運動方法を選択したりして授業に取り組んだことで,より主体的に活動することができるようになった結果と考えられる。
<体操学習に対するアンケート>
Q1 体操の学習は好きですか。
 a.はい  b.いいえ  c.ふつう
Q1 回答グラフ
Q2 次の体力を高めるのに適した運動を知っていますか。
@ 柔軟性を高める運動
 a.はい  b.いいえ  c.ふつう
Q2 回答グラフ
A 筋力を高める運動
 a.はい  b.いいえ  c.ふつう
Q2 回答グラフ
B 調整力を高める運動
 a.はい  b.いいえ  c.ふつう
Q2 回答グラフ
C 持久力を高める運動
 a.はい  b.いいえ  c.ふつう
Q2 回答グラフ
Q3 自分の体力で優れている所劣っている所はどこですか。
 a.柔軟性 b.筋力
 c.調整力 d.持久力
Q3 回答グラフ
Q3 回答グラフ
Q4 家庭で体力つくりの運動を行っていますか。
 a.ほとんど毎日行っている
 b.週に2〜3回行っている
 c.ほとんど行ってない
Q4 回答グラフ
Q5 Q4でaかbと答えた人だけ,次の質問に答えて下さい。
@ どのような運動を行っていますか。
A 1日の運動時間は平均はどのくらいですか。
 a.15分以内 b.30分以内
 c.1時間以内 d.1時間以上
Q5 回答グラフ
 アンケートの調査結果から,Q1「体操の授業は好きですか。」Q2「次の体力を高めるのに適した運動を知っていますか。」について「はい」と答えた生徒と,Q3「自分の優れている体力,劣っている体力は何ですか。」についてきちんと答えられた生徒は,どちらも90%以上に達している。これは,体操の学習を各自の課題や目標などに応じて意図的・計画的に取り組んできた結果と考えられる。
 Q4「家庭で体力つくりの運動を行っていますか。」については,55%の生徒が実施していると答えている。運動時間は,30分以内がほとんどで,運動内容は,ジョギング・腹筋・背筋・縄跳び・ウオーキング・ストレッチ体操等であった。
 運動量については,心拍数を意識させながら(代表生徒に,ハートレイトモニターを装着させて測定する)学習することによって,各自はっきりとしためあてを持つようになり,そのことが運動量の増加につながったと考えられる。
<ハートレイトモニターによる心拍数測定結果>
心拍数測定結果
 オリエンテーションの中で,自己の体力に対する課題意識の持たせ方や,運動の仕方の指導,プログラムの立て方等の指導が不十分だったために,効果的な運動ができなかったり,プログラムに無理があったりした。はじめから良い動きや良いプログラムは出来ないので,実践しながら動きを高めていったりプログラムの修正をしていくことが必要である。
 運動プログラムの作成については,年齢・性別・体力・運動能力に応じた観点や条件の与え方の指導をするとともに,学習したことをもとに他の領域での補強運動や部活動,家庭で活用できるようにするための運動プログラム作りをしてきた。今後,各自の体力や運動能力に応じた運動プログラムと体力つくりの計画を立てることができる能力を,意図的・計画的に高めることができるような学習内容と資料の工夫を図っていきたい。
(エ)  まとめ
 自分の体力について把握させ,体力つくりの重要性を認識させ,さらに具体的な運動の仕方とその運動の効果がわかると,意欲的に取り組む姿勢が見られるようになった。更に,日常生活の中のいろいろな場面で,体力つくりを積極的に実践していこうとする態度もつけていきたい。
 体操の学習を通して,体力つくりに関する知識や体力を高める必要性の理解と,体操の楽しさを体験することで,体力つくりの日常化につながると考えられる。
 生徒が主体的に体力つくりに取り組むようにするためには,第1学年の学習過程において,体力についての知識の学習や体力つくりのための運動の基本をしっかりと身につけることが大切である。
 主体的な活動を支援するために,活動場所(体育館等)に各種の運動の基本的な動きを貼っておいたり,自分たちの動きをビデオに収録するなどして,動き作りのための視覚的資料の活用は有効であった。
 今後の課題については,次のような点があげられる。
 体操の授業で学習した事を,生徒一人一人の生活化にどのように結びつけていくか,研究を深める。
 体操の年間指導計画への位置づけを行う。
 各自の年齢・性別・体力・運動能力に応じた運動プログラムの作成にあたっての観点や条件の与え方についてさらに工夫する。
 家庭・地域ぐるみの体力つくりを進めるための連携の在り方。
 体力についての興味・関心を持つような環境づくりの研究。


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