3.授業の実践

(1)  体操領域だけの単元を設けている授業実践
まとめ取りの体操授業例
 A校の例
(ア)  はじめに
 体操領域は,体力向上を直接のねらいとしているが,その限られた時間の中で体力を向上させることは難しい。そこで,体力を向上させることの必要性や,体力を向上させるときに必要な考え方や方法,体力を向上させるときの計画の立て方(運動プログラムの作成方法)を指導していくことが重要であると考えた。また,生涯にわたって健康・体力を保持・増進する必要性や考え方,方法について指導し,将来,自発的・自主的に運動に取り組む態度を育成することも重要であるととらえた。
 本校では,上記のことを達成するためには,体操領域をまとめ取りし,集中して指導した方が効果的であると考え,第1学年から第3学年までの年間計画を変更した。また,第1学年で体操の基本的な考え方や行い方の学習,第2学年で基本をもとにした各自の運動プログラムの作成の学習,第3学年で体育学習以外の場での運動プログラム作成の学習というように系統的な指導を目指した。
(イ)  第1学年の例
 a 体育に関する知識学習指導案
体育に関する知識学習指導案
   
 授業の分析と考察
 これまで,「体育に関する知識」については簡単に取り扱い,実技を中心とした学習を行ってきた。しかし,現在,保健体育科の学習で求められている「生涯体育・スポーツにつながる学習」ということを考えると,運動の必要性や適切な運動の行い方,運動を行ったときの効果などについて,生徒に十分理解させることは重要である。また,「体力の向上」を直接ねらいとする体操領域の学習も,それらのことを十分に指導してから実施しなければ,効果的な学習は望めない。
 本単元では,話し合い活動や課題解決学習を通して,運動と心身の働きについての理解を深めさせるとともに,そこで学習したことを体操領域の学習や日常生活に生かしていこうとする態度を養うことをねらいとして指導した。
 話し合い活動や課題解決学習では,意欲的に運動と心身の働きについて理解を深めようとする姿が見られた。また,授業後のアンケート調査結果を見ると,「運動の必要性」や「運動とからだの働き」「運動と心の働き」についての理解は深まったようである。この学習の直後に,体操領域の学習をすれば,体力の向上に向けての意欲が向上するとともに目的意識を明確に持った取り組みが見られたであろう。そこで,次年度からは体育に関する知識と体操領域をひとまとめとするよう指導計画を改善していく必要があると感じた。
第1学年の体操学習の進め方
(ウ)  第2学年の例
 a 体操単元計画
中学校 第2学年1・2・3組 体操単元計画案
指導者 ○○ ○○
  1.  単元名  体 操
  2.  運動の特性
    (1)  一般的特性
     体力の向上や動きの習熟を直接目指す運動である。
     体力つくり,準備運動,整理運動,補強運動など,一定の目的をもって,自己の能力に応じたプログラムを自由に作成し,活用することができる。
     施設,用具,人数,あるいは技能,体力などの個人差を考慮しながら,行い方を工夫することができる。
    (2)  生徒からみた特性
     日常生活や必要に応じて,いつでも,どこでも,一人でも,自由に行ったり,自分の目的に応じて工夫したりするところに楽しさがある。
     体力が向上したときに満足感を味わえる。
     単調で興味に欠ける。
  3.  生徒の実態(2年1・2・3組 男子64名 女子44名 計108名)
     本校の第2学年の生徒は,第1学年で体操の意義や行い方についての学習をしている。また,部活動の中で準備運動や補強運動,整理運動などを継続的に実施している生徒も多い。しかし,それらは教師から与えられたメニューをこなすだけで,個人にあった運動とはいえない。
     そこで,本単元では,個人の現在の体力を理解させることにより,一人一人にめあてを持たせ,そのめあてに応じた運動プログラムを作成するとともに,それを実践したり発表する中でさらに深めていくことをねらいとしていきたい。
  4.  教師の授業への意図
     第1学年では,「体力を高める必要性を知る。」「自分の体力を知る。」「体力を高めるための基本的な行い方を知る。」ことを中心に指導した。
     そこで,第2学年では,第1学年で学習したことを踏まえ,「自分に必要な体力や伸ばしたい体力を考え,一人一人が自分にあった運動メニューを作成すること」,また,それを「実践してみたり,発表し合う中で,生徒同志で深めあっていくこと」を中心に学習を展開していきたい。
  5.  学習のねらい
    (1)  自分の体力を知り,それを向上させるために進んで運動メニューの作成に取り組んだり,協力しながら深め合うことができる。 (関心・意欲・態度)
    (2)  資料を活用したり工夫して,自分の体力にあった運動メニューを作成することができる。 (思考・判断)
    (3)  ねらいに応じた体操を正確にすることができる。 (技 能)
    (4)  自分の体力に応じた運動メニューの作成の仕方が理解できる。 (知識・理解)

第2学年 体操学習の道筋と時間配分

第2学年 体操学習の道筋と時間配分1
第2学年 体操学習の道筋と時間配分2


◎ 評価目標
関心・意欲・態度 思 考・判 断 技  能 知 識・理 解
@  自分の体力に関心を持ち,進んで課題解決に取り組んでいる。
A  協力し,教え合いながら体力の向上を目指して取り組んでいる。
B  自分の体力にあっためあてを持ち,運動メニュー作成に取り組んでいる。
C  資料を活用したり工夫したりして運動メニュー作成に取り組んでいる。
D  ねらいに応じた体操を正確にすることができる。
E  自分の体力に応じた運動メニューの作成の仕方が理解できる。


第2学年の学習の進め方
   
 授業の分析と考察
 第2学年では,「自分の体力の分析からより自分にあったトレーニング方法を導き出し,それを運動メニュー化する」学習を通して,体操学習後に,より合理的に体力向上を図ることを目指したが,それを習慣化させることができた生徒は少なかった。
 習慣化を図るためには,トレーニングをしたことにより,自分の体力が向上した成果を,確認できる場や機会を増やしていく必要があると思う。「いつでも自分の成果を確認することができれば,それがまた体力を高める励みになる。」と考えられるからである。また,効果的な運動メニューの作成ができるよう,体育理論を研究し,より適切な資料を提供する必要性を感じた。
(エ)  第3学年の例
 a 体操単元計画
中学校 第3学年1・2・3組 体操単元計画案
指導者 ○○ ○○
  1.  単元名  体 操
  2.  運動の特性
    (1)  一般的特性
     体力の向上や動きの習熟を直接目指す運動である。
     体力つくり,準備運動,整理運動,補強運動など,一定の目的をもって,自己の能力に応じたプログラムを自由に作成し,活用することができる。
     施設,用具,人数,あるいは技能,体力などの個人差を考慮しながら,行い方を工夫することができる。
    (2)  生徒からみた特性
     日常生活や必要に応じて,いつでも,どこでも,一人でも,自由に行ったり,自分の目的に応じて工夫したりするところに楽しさがある。
     体力が向上したときに満足感を味わえる。
     単調で興味に欠ける。
  3.  生徒の実態(3年1・2・3組 男子64名 女子44名 計108名)
     本校の第3学年の生徒は,第1・2学年で体操の意義や行い方,簡単な運動メニューの作成についての学習をしている。また,部活動の中で準備運動や補強運動,整理運動などを継続的に実施してきた生徒も多い。しかし,夏休み以降,運動を十分に行っておらず,体力を向上させる必要性を感じている生徒が多い。
     そこで,本単元では,個人の現在の体力を理解させることにより,一人一人にめあてを持たせ,そのめあてに応じた運動プログラムを作成するとともに,それを実践する中で体力つくりの生活化を図るとともに,生涯にわたって体力を高める必要性を理解することをねらいとしていきたい。
  4.  教師の授業への意図
     第1学年では,「体力を高める必要性を知る。」「自分の体力を知る。」「体力を高めるための基本的な行い方を知る。」ことを中心に授業を展開した。また,第2学年では,第1学年で学習したことを踏まえ,「自分に必要な体力や伸ばしたい体力を考え,一人一人が自分にあった運動メニューを作成する。」ことを中心に授業を展開した。
     そこで,第3学年では「体力を向上させるための自分にあった運動プログラムを作成する。」こと,「生涯にわたって,体力を向上することの必要性を理解する。」ことを中心に授業を展開していきたい。
  5.  学習のねらい
    (1)  自分の体力を知り,それを向上させるために進んで運動プログラムの作成に取り組んだり,協力しながら深め合うことができる。 (関心・意欲・態度)
    (2)  資料を活用して,自分の体力にあった運動プログラムを作成したり,運動の実践を通して運動プログラムの工夫・改善を図ることができる。 (思考・判断)
    (3)  ねらいに応じた体操を正確にすることができる。 (技 能)
    (4)  自分の体力に応じた運動プログラムの作成の仕方や生涯にわたって体力を向上させることの重要性が理解できる。 (知識・理解)

第3学年 体操学習の道筋と時間配分

第3学年 体操学習の道筋と時間配分1
第3学年 体操学習の道筋と時間配分2


◎ 評価目標
関心・意欲・態度 思 考・判 断 技  能 知 識・理 解
@  自分の体力に関心を持ち,進んで課題解決に取り組んでいる。
A  協力し,教え合いながら体力の向上を目指して取り組んでいる。
B  自分の体力にあっためあてを持ち,運動プログラム作成に取り組んでいる。
C  資料を活用したり工夫したりして運動プログラム作成に取り組んでいる。
D  ねらいに応じた体操を正確にすることができる。
E  自分の体力に応じた運動メニューの作成の仕方が理解できる。
   
 授業の分析と考察
 第3学年では,「自分の体力を分析し,自分にあった1週間の運動プログラムを作成する。」学習を通して,日常生活での体力の向上を目指すとともに,生涯にわたって体力を向上しようとする態度を育てることをねらって学習を進めた。
 しかし,各自作成したプログラムをもとに1週間実践させた結果,プログラムに無理があったり,運動量が十分ではなかったという反省が多かった。そこで,各自のプログラムについての見直しをさせ,修正してさらに1週間実践するよう指導した。再検討させた後の運動プログラムでは,運動量面において,十分だったと答えた生徒が多く,運動プログラムの作成に当たっては,実践しながら修正していくことが重要であることが分かった。また,修正前よりも修正後の方が,運動の実施率も高く,無理のないプログラムを立てることが,運動を継続していく上でも重要であると考えられる。

<プログラムに従って運動したときの運動量>
プログラムに従って運動したときの運動量

<プログラムに従った運動の実施率>
プログラムに従った運動の実施率

 また,運動時の運動量を,典型的な運動プログラムを作成した3名の生徒に,ハートレイトモニターを装着し,心拍数を測定する方法で検証した。その結果,3名とも心拍数160回/分前後の運動を30分以上行っており,十分な運動量を確保していると考えられる。また,食事の前後に筋力トレーニングを計画したり,ストレッチを毎日,入浴後行うなど,プログラムの内容も合理的であると思われる。
<生徒の作成した運動プログラム 例>
生徒の作成した運動プログラム 例 生徒の作成した運動プログラム 例


<ハートレイトモニターによる心拍数測定結果>
ハートレイトモニターによる心拍数測定結果
ハートレイトモニターによる心拍数測定結果
ハートレイトモニターによる心拍数測定結果 授業風景
   
   3学年の学習では,自分の運動プログラムを作成するだけでなく,家族の運動プログラムを作成させた。これは,将来,運動を続けていく必要性を理解させるとともに,無理のない(継続できる)運動プログラムの作成について考えさせることを目的として行った。しかし,家族が,そのプログラムに従って運動できた割合は,40%未満であり,実施できる計画を立てられるよう改善していく必要があると感じた。
 今回の運動プログラムの作成を中心とした体操の学習で,「運動を毎日行い,体力を維持していきたい。」「慣れてきたらメニューを増やしていきたい。」「大人になっても運動して健康を維持していきたい。」などの反省が得られ,体力向上,健康維持の意欲付けになったと思う。その後,運動を継続している生徒も多く,科学的なトレーニング方法やプログラムの立て方の研修をするとともに,指導法の改善をしていけば,生徒一人一人が自分の健康や体力の状況からどこをどのように高めたいかという意識を主体的に持ち,将来,継続的な正しい実践によって健康や体力を向上させる支えとなるような体操学習に近づけるのではないかと考えられる。
(オ)  長期休暇における家庭での体力つくり
 体力の向上を図るためには,教科の授業,部活動のほかに家庭での運動を継続していくことも必要である。そこで夏休みの前に,簡単な運動に関する計画を立てさせ,それに従って実践するよう啓発した。
 まず,事前に以下の資料をもとに体力を高める方法や各自の伸ばしたい体力を復習させることにより,長期休暇中になにをどのような方法で高めていきたいかを考えさせた。そして,それをもとに長期休暇中の運動計画(スケジュール)を立てさせた。

夏休み体力向上計画
(カ)  まとめ
 「はじめ」にも述べたように,体操領域は,体力向上を直接のねらいとしているが,その限られた時間の中で体力を向上させることは難しく,体力を向上させることの必要性や,体力を向上させるときに必要な考え方や方法を指導していくことが重要である。また,第1学年から第3学年まで系統的に進めていくことも重要であると考えた。
 そこで本校では,第1学年で「体力を高める必要性や効果,体力を高めるための方法の基本的な考え方や行い方の学習」,第2学年で「自分の体力に応じて,運動を選び部活動や家庭で実践できる運動メニューを作成する学習」,第3学年で「1日,1週間,1年間,さらに家族の運動プログラムを作成する学習」という計画を立て実践した。その結果,同じように運動しても,その運動によってどのような体力が向上するのかということを意識できたり,自分の作ったプログラムをもとに家庭で運動する生徒が増えるなど少しずつではあるが効果が見られた。また,「生涯体育・スポーツ」の観点から,生涯にわたって運動を継続していく必要性を理解させることができた意味は大きいと思う。
 しかし,このような体操の学習を深めていくためには,教師側でトレーニング方法に対する知識が必要であるだけでなく,生徒の提供する十分な資料が必要となる。また,生徒の意欲を継続させるために,体力を確かめることができる場や機会を増やしていくことも重要であると感じた。そこで以下のような課題をもって,さらに研修を深めていきたいと思う。
@  生徒自ら学んでいけるような指導計画に改善する。
A  科学的な思考を高めることができるよう,資料を集め,研究を深める。
B  体力向上の習慣化が図られるよう,体力を測定できる場を設置したり,体力測定の機会を増やす。


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