3.生活科における創造性の育成に関する実態調査

 研究主題の基本的な考えに基づき,創造性を培う生活科学習を支援する上での諸問題について実態調査を実施した。
(1)
 調査対象  無作為に抽出した県内の公立小学校100校の生活科主任に回答を依頼した。回答者数は99人である。
(2)  実施時期 平成8年10月21日から平成8年10月25日まで
(3)  調査項目,調査結果及び分析
表中の数値は,全て回答者数に対する各問の回答数の割合(%)である。

@  学校教育で創造性を育てる必要性(表1)
 表1 子供の創造性を育てる必要性について(二つまで回答可)

 「創造性は,子供が自らの課題を解決するにあたり,主体性をもって,子供自身にとって新しい価値あるものを創り出すことであり,創り出そうとする資質・能力である。」として創造性を考えると,どのようなところで子供の創造性を育てる必要性を感じますか。
ア 生活の向上のため
イ 社会的な問題の解決のため
ウ 自己実現のため
 9.3
 5.2
73.2
エ 社会の変化に対応するため
オ 必要性を感じない
カ その他
12.4
 0.0
 0.0

 学校教育における創造性の育成は,子供一人一人が,自らの可能性の実現のために,新しい価値あるものを創り出すという自己実現の視点から考える必要がある。また,この視点に立つことによって社会的・文化的に新しい価値あるものを創り出す創造性についても前者の延長線上に位置付けることができると考える。選択肢ウの回答率は上記の創造性についての考え方が多いことを示している。
A  育てたい創造的な態度(表2)
 表2 特に育てたい創造的な態度について(二つまで回答可)

生活科の授業で,特に育てたい創造的な態度としてどのようなものがありますか。
ア 自発性
イ 好奇心
ウ 柔軟性
エ 衝動性(意欲の強さ)
オ 持続性
67.7
28.3
27.3
15.2
16.2
カ 集中力
キ 独自性
ク 特になし
ケ その他
 7.1
37.4
 0.0
 1.0

 生活科における授業は,子供がやってみたいと思うような活動から始められなければならない。その意味で,選択肢ア,イの回答率は,創造的な活動を展開するための原動力の重視と考えられる。また,選択肢ウの回答率は,創造的な活動の過程における思考の柔軟性の重視,そして,選択肢キの回答率は,子供にとって新しい価値あるものの重視を示していると考えられる。
B  育てたい創造的な能力(表3)
 表3 特に育てたい創造的な能力(発想し表現する力)について(二つまで回答可)

生活科の授業で,特に育てたい創造的な能力としてどのようなものがありますか。
ア 思考の方向が多種多様に変わっていく思考(発散的思考力)
イ ある一定の方向に導かれていく思考(収束的思考力)
ウ 直観的思考力(直観力)
エ 論理的思考力
オ 想像的思考力(想像力)
カ 表現技能
キ 特になし
ク その他
50.5
 9.1
21.2
11.1
66.7
38.4
 0.0
 0.0

 選択肢ア,オの回答率は,発散的思考力や想像力を重視している結果を示している。発散的思考力と収束的思考力,直観力と論理的思考力という二種類の思考力を共に選択した回答は非常に少なかった。創造的な能力の育成のためには,子供が自らの問題を解決していく過程で,直観力と論理的思考力,発散的思考力と収束的思考力という両方の思考力が働くように配慮する必要があると考える。
C  授業で子供の創造性を感じる場面(表4)
 表4 授業で子供の創造性を感じる場面について

生活科の授業において子供の創造性を感じた場面について,簡単にご記入ください。
ア その子供なりの発想や考えを表現している場面
イ 友達と共に製作活動などを行っている場面
ウ 試行錯誤しながら取り組んでいる場面
エ 思いや願いを意識化している場面
オ 生き物と遊んでいる場面
カ 今までの学習経験を生かして,より工夫した表現活動をしている場面
キ 子供のつぶやき
60.6
 6.1
 6.1
11.1
 4.0
 8.1
 2.0

 子供の創造性を感じていることは,何らかの場面で回答者全てが感じている。特に,おもちゃ作りや木の実・葉を使う製作などの活動場面,子供しか思いつかないようなアイデアを考えている活動計画づくりの場面及び一度作ったものを改善していくような活動場面など,その子供なりの発想や考えを表現している場面や活動計画づくりなどで感じる回答者が多かった。
D  創造性を意識した授業の実施(表5)
 表5 創造性を意識した授業の実施について

現在,子供の創造性を育てることを意識して,生活科の授業を行っていますか。
ア いつも意識して行っている。
イ 時々意識して行っている。
ウ 意識しては行っていない。
エ 特になし
オ その他
29.3
66.7
 1.0
 2.0
 1.0

 子供の創造性を意識した授業については,選択肢ア,イを合わせて96.0%になり,意識的に実践されていることが推察できる。今後は,表1の結果が示すように,子供の自己実現のために創造性が重要であるとの認識に基づき,表3の結果が示すように,創造性についての概念を明確にしながら,授業における創造性の育成の具体的な方策について,学校の実態をもとに検討していく必要がある。
E  創造的な能力の育成上の問題(表6)
 表6 創造的な能力(発想し表現する力)の育成上の問題について(二つまで回答可)

生活科の授業で,特に子供の創造的な能力を育てるうえで問題になることがありますか。
また,その問題にどのように対応していますか。
ア 子供の気付きをくみ取ることが難しい。
イ 活動内容に応じた学習形態づくりが難しい。
ウ 子供の対象への思いや願いを把握することが難しい。
エ 子供の自発性に基づく活動において子供一人一人に応じる支援が難しい。
オ 子供の発想や夢がふくらむような材料・用具の準備が難しい。
カ 思う存分活動に取り組める時間の確保が難しい。
キ 思う存分活動できる場の確保が難しい。
ク 積極的な地域・家庭との連携が得られにくい。
ケ 特に問題はない。
コ その他
27.3
5.1
12.1
51.5
21.2
28.3
18.2
 4.0
 3.0
 1.0

 創造的な能力の育成上の問題として,子供一人一人の自発性に基づく活動における支援の難しさ,時間確保の難しさ及び材料・用具準備の難しさなどの指摘が多かった。これらの難しさへの対応として,アンケート,計画カード,ティーム・ティーチング(以下「T・T」という。)の導入などをもとにしたきめ細やかな支援,図画工作や国語及び音楽などとの合科的な取り扱い,時間割の変更,内容の精選による時間確保及び家庭への協力依頼などによる材料・用具の準備などが考えられる。
F  個の創造的な能力の育成の手だて(表7)
 表7 個の創造的な能力(発想し表現する力)の育成の手だてについて(二つまで回答可)

生活科の授業で,子供一人一人の創造的な能力を育てるために,特にどのような手だてをとる必要がありますか。
ア 体験や活動を重視する学習活動を展開する。
イ 生活の中の問題を意識できるように計画する。
ウ 教師自らが創造的な態度を示すようにする。
エ 試行錯誤等自由な活動を通して基礎的基本的なことが身に付くようにする。
オ 活動のねらいの達成のために,支援できる教師の力量を高める。
カ 子供の発想や夢がふくらむ材料・用具の準備をする。
キ 自分の考えが自由に表現できる環境を整備する。
ク 特に考えたことはない。
ケ その他
75.8
10.1
 6.1
24.2
25.3
24.2
24.2
 1.0
 0.0

 選択肢アの回答率は,子供一人一人の創造的能力を育てるためには,「自然体験」,「社会体験」及び「生活体験」を重視する学習活動を展開する必要性の高さを示している。また,選択肢エ,オ,カ,キは,自由な活動を通して基礎的・基本的なことが身に付くようにしたり,材料・用具の準備をしたり,学習環境を整備したりするなど,支援する教師の力量を高める必要性を示していると考える。
G  集団の創造的な能力の育成の手だて(表8)
 表8 集団の創造的な能力(発想し表現する力)の育成の手だてについて(二つまで回答可)

生活科の授業で,集団としての創造的な能力を育てるために,特にどのような手だてをとる必要がありますか。
ア 集団で思う存分活動できる時間の確保をする。
イ 多様な活動が展開できるようなT・T方式を導入する。
ウ 活動の同じ子供が集まり合同学習や異学年交流など学習形態を工夫する。
エ 小集団で一つの目標に向け協力しながら活動を展開する場の設定をする。
オ 集団の活動のねらいの達成のために,支援できる教師の力量を高める。
カ 子供同士が認め,励まし合うことのできる環境を整備する。
キ お互いの考えが自由に表現できる環境を整備する。
ク 特に考えたことはない。
ケ その他
17.2
52.5
28.3
24.2
10.1
45.5
17.2
 0.0
 0.0

 選択肢イ,カの回答率は,集団としての創造的な能力を育てるために,T・Tの導入と,子供同士が認め,励まし合うことのできる環境整備の必要性を指摘している。この指摘は,集団が問題解決のために協力し合いながら活動を展開する過程で,選択肢ア,キの時間の確保や自由に活動できる環境づくりとともに考えることが必要であると思われる。また,選択肢の組み合わせはア,オが一番多く,ゆとりをもった活動時間の確保とその活動を支援する教師の力量を高める必要があると考える。

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