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児童会・生徒会活動の課題

 児童会活動と生徒会活動は,ともに全校の子どもで組織して学校生活の充実と向上を目指して活動するもので,子どもたちの自発的,自治的な活動としての特質を持っているが,小学校児童による児童会活動と,中,高等学校生徒の生徒会活動には大きな差異があるのも事実である。
 まず,児童会活動は,児童たちによる創意や工夫を生かして学校生活の充実よ向上のために諸問題を話し合う,といっても低学年から5,6年まで発達段階が大きくかけ離れており,そのために,学習指導要領指導書「特別活動編」に記載されるように,活動運営の実施学年は「主として高学年の児童」になるのである。従って,児童会活動がそのねらいに即して効果を発揮するためには,教師の指導のねらいが無理なく目標に到達できるよう指導計画の工夫が求められている。
 一方,中,高等学校の生徒会活動は児童会活動で育った自発的,自治的活動の基本を踏まえて,さらに,生徒の諸活動の連絡調整や学校行事への協力などを通して社会性や個性の伸長を図っていこうとするものである。
 この調査は児童会活動と生徒会活動の比較できるようできるだけ設問内容を揃えたので,まず,活動の中心になるリーダーの選出から見る。(図44)
図44児童会代表委員会の選出(小設問17) 児童会活動の中心になって活動するのは,主として高学年の代表者が参加する代表委員会である。小学校によっては運営委員会や企画委員会の名称で活動しているが内容は同じで,学校生活の諸問題を話し合い,解決を図る活動であるから,この代表の選び方は最も活動の基本である。
 図44より,県内の小学校では,代表委員の選出に「選挙」によっている学校が106校である。全体の17.9%であり少なくない割合である。(回答のア.とイ.の合計数)
 この選挙選出の地域差はあまりなく,学校規模別で見ると,小規模校の場合が若干選挙での選出が多いようである。
 今回は選挙の選出方法までは回答を求めなかったので具体的な議論はできない。
 ただ,児童会の代表を選挙で選出するのが一般的ではない,というのが実態である。その中には,「学級代表」の性格を飛び越えて「自由な選挙」が相当数含まれてはいることに注目すべきであろう。
 さて,代表委員の決め方の4割弱は「学級の割り当て」である。これは,主として高学年の代表という代表委員会の趣旨からすれば妥当な方法であろう。問題は,学級の割り当ての中味である。学級の代表として学校生活の充実向上を目指した話し合いに参加する児童の自覚を持たせて活動を活溌にするには学級の支えが必須の条件であろう。
 学級活動との関連を見ようとした設問18では,「学級活動との関連づけが弱い」との回答が98校,16.5%に及んでいる問題が注目されるべきである。
 さらに設問17の代表委員の選出で,「児童会の役員は決めないで,活動に応じて交代で行う」が29.2%で,ほぼ,3校に1校の割合である。これは,特定の児童にリーダーの役割を固定せずに役割分担を変動させながら社会性を養うことと,さまざまな委員会活動を通して具体的な活動実践を積み重ねようとする風潮を反映したと考えられる。ひとりひとりが主役になる活動では,リーダーとフォローアーが固定した集団関係では発展性がなくなるから,活動の種類に応じて役割分担できればよい。こうした理念を現実のものにしていくためには,学習指導要領指導書「特別活動編」が掲げる次の性格を充分意識する必要がある。
 「この目標(児童会活動の目標)における「自発的,自治的に行うことによって」は,児童の自主的な活動を重んじ,児童の発想や創意を生かし,自らの手で実践を目指したものであり,なすことによって学ぶという特別活動の指導原理を踏まえたものである。したがって,その活動が単なる方法や手段となるのではなく,児童の自発的,自治的な活動そのものが,目標達成の基本と言えよう。」
 こうした児童会活動で培ったリーダーシップを中学校や高等学校の生徒会活動にどう生かしていくのかを,同じように代表役員の選出の問題を図45でみて見る。
図45−1生徒会役員の選出(中設問17) 中学校の生徒会活動は,小学校の児童会活動とは違って,全生徒のもつ問題や意見を反映した,自発的,自治的な活動が展開できるような組織にしていくことが期待されているので,生徒会規約に基づいた代表選出や全体の意思決定機関である生徒総会などを中心に運営されることになる。
 図45により,中学校の代表選出は,自由な選挙による方法で60.3%,学級の推薦による選挙で33.6%となっており,3校の2校は自由派,残り1校は学級代表選挙で選ぶ形式である。これを小学校の児童会代表委員の選出と関連づけて評価すれば,高学年の学級代表による活動が,中学校になると生徒会活動の先頭に立って活躍しようとするリーダーシップの発達により「自由な立候補」が増加してくるものと考えられる。それでも,学級の代表という機能は大切であるのである程度は維持されるであろう。
 中学校における自由派と学級代表の比率は,こんな位置づけで評価したい。但し,高等学校の段階では,自由派の華々しい選挙戦となって結実することを想定した捉え方である。
 高等学校の設問17「自由な立候補によって活発な選挙戦」と「立候補は自由だが,ほとんど信任投票」と2つの選択肢に分けたのはその評価のためであった。
図45−2生徒会役員の選出(高設問17) 図45のように,結果は,「ほとんど信任投票」の選択肢が圧倒的に選ばれた。「活発な選挙戦」を選んだ高校は,県下110高校のうち14高校に過ぎないのである。
 この14高校は,旧制中学校を前身とする学校は1校,女子が多い学校は4校,専門学科の高校5校,比較的新しい高校が3校と,学校の歴史的背景や特色ある伝統に片寄っているとは考えられない。
 従って,図45の結果は,小,中,高等学校の教育活動の成果が表われているものと考えるべきであろう。つまり,小学校における学級代表型の活動から中学校の自由な立候補へと活動形態の変化の発展が,高等学校の「ほとんど信任投票」69.1%の世界に結びついている,と捉えたい。「ほとんど信任投票」,とは立候補意欲が極めて低調で,おそらく,立候補者は半ば義務的に行動していると考えられるし,あるいは,教師による「学校のために」という指導の結果に依るとも考えられる。生徒会役員の立候補意欲が低い状態では生徒会活動の活性化は困難であろうから,この立候補問題は大きな課題と言うべきであろう。小学校から一貫して掲げている「自発的,自治的活動」の指導の中味が問われていると考えられる。
図46代表委員会の議題(小・中設問19) それでは,児童会・生徒会活動は具体的に何をしているのか,代表委員会の議題を探ろうとした設問19によって,小学校と中学校の活動を比較して見たのが図46である。
 代表委員会の議題として最も多く選択されたのは小,中学校とも「学校行事への協力」である。小学校では全体の67.3%に当たる398校であり,学校規模で見ると,大規模校ではやや少なめである。最も選択が少ない県南地区大規模校は20/37=54.0%で,中,小規模校との差はかなりあった。
 児童会活動に期待されるのは,「学校生活の充実と向上のために諸問題を話し合い,協力してその解決を図る活動」である。もちろん学校行事に児童の自主的な参加を促すために児童会活動と関係づけて協力して取り組むことは大切な課題であるが,本来の趣旨から見れば,代表委員会の議題として具体的な活動となる各種委員会の活動や学校生活の改善の議題が余りにも軽視され過ぎているのが現状である。
 同じように中学校のデータからも学校行事に傾注し過ぎる現状を伺うことができる。中学校の場合には学校行事に主体的に参加することで充実感や所属感を育てよい校風づくりに生徒会活動は重要である。しかしながら,学習指導要領にも生徒会活動について,「学校生活の充実や改善向上を図る活動,生徒の諸活動についての連絡調整に関する活動及び学校行事への協力に関する活動」と明示されるように,バランスのとれた議題を設定していくことは生徒会活動のねらいを達成する上で大切である。学校全体での活動成果を追い求める風潮が強すぎて,日常のさまざまな問題に地道に取り組む活動が手抜きになっているきらいも伺えよう。大規模校の方が「学校生活の改善」という議題の取り上げが 多くなるのは,小学校と同様である。
図47生徒会の自治意識(高校設問23) こうして,高等学校の活動実態が明らかになってくる。図47は設問23での生徒会活動の自治意識を回答するものであるが,全校生徒の自治意識が高いと回答した学校は1校のみで「生徒会役員など一部の生徒たちが積極的」が過半数に達する現状である。
 全校生徒の意識が低い,との回答も26.4%と1/4を越えているのである。
 こういう現状では,生徒会活動に期待される学校生活の規律とよき校風の確立のための活動や環境美化活動も,相互の親睦深める活動も,効果をあげることはきわめて困難であろう。生徒会活動は活動の意義という最も基本的課題に直面していると言える。
 自発的,自治的活動になるよう指導・援助していくことが生徒会活動の最も大きな目標であるから,活動の成果にこだわることなく,活動の取り組みに照準を当てて,自らの問題は自ら協力して解決しようとする態度を育てる工夫が必要である。
図48各種委員会設置(中設問21) そのためには,例えば,小学校設問20の回答で「代表委員会の運営は,活動計画づくりから児童の自主性を尊重している」学校が全体の36%にも達していながら,実際の委員会活動では,設問21での委員会設置に児童会の希望に従っている学校が1.2%に過ぎない現状なども克服したいものである。同様に中学校の設問21を見ても図48のように,各種委員会の設置に生徒会の希望が取り入れられている割合は極めて低いのが現状である。各種委員会が生徒会の日常活動の舞台であることを考えると,生徒を主役とした生徒会活動について改めて見直したい。
 さらに,現行学習指導要領「特別活動」が,従来ややもすると小学校と中学校との関連性のみを重視した考え方が強かったことを克服して,中学校と高等学校との関連をいっそう重視する観点を明確にしていることを踏まえて,児童会・生徒会活動に期待される自発的自治的活動の発展を,小学校から高等学校まで,一貫して取り組みたい。それには,児童生徒たちが協力して解決すべき学校の課題はどんなものがあるか,教師と児童・生徒が一緒になってその方策を見出す工夫が求められていると考える。


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