5 「LEDを使った自作回路を制御しよう」 (第3学年 電気)

(1)  題材について
 第3学年選択教科としての技術・家庭科(技術)では,「エレクトロニクスコース」を開設している。「エレクトロニクスコース」では,第2学年で学習した電気領域での内容を踏まえて,生徒の特性等に応じて多様な学習活動が展開できるように,電子機器の製作を中心に指導を行っている。
 選択教科としての学習活動では,回路の設計,部品収集さらに製作までの一連の活動を生徒が主体的に行うことが考えられるが,どの程度の規模の回路を製作するか,予想した性能が実現できるか,確実に部品が集められるか,予定した時数の範囲で完成するかなど,考慮すべき要素がきわめて多岐にわたってしまい,授業を構想するのが著しく困難になることが懸念される。そこでこれまでは,生徒の能力・適性,興味・関心を考慮に入れて,市販されているキットの中から学習効果の高いものを選び,製作を通して電気機器の仕組みや働きを効果的に体験できるように配慮してきた。
 一方,第3学年技術・家庭科(必修)の情報基礎領域では,コンピュータの操作等を通して,その役割と機能について学習している。生徒は,コンピュータ等のさまざまな情報機器に囲まれて生活しており,それらとの関わりから「コンピュータはいろいろなことができる。」という漠然とした知識は持っているが,具体的な利用分野をあげさせるとワープロやゲームとしか答えられず,マスメディア等から得られるだけの断片的で狭い範囲の利用例しか思い浮かばない結果となっている。家庭生活や社会生活の中で,それとは知らずに使っている機器の中に,さまざまなコンピュータが組み込まれていることを機会あるごとに知らせるように一心掛けてはいるが,座学的な指導では具体性に乏しいせいか,十分に理解させられないのが現状である。
 コンピュータの利用分野については,事務処理分野,制御分野,通信分野などがあり,それぞれ実習等を通して,機器に接しながら具体的に学習することが大切である。このうち事務処理分野については,ワープロ,データベース,表計算,図形処理に関するアプリケーションソフトウェアの利用実習を通して,コンピュータの基本操作能力や情報活用能力を身に付けたり,有効な利用分野を知ることができる。制御分野については,インタフェースを介してコンピュータでいろいろな機器を制御しながら学習活動を進めると,コンピュータシステムの構成と機能,プログラムの機能などについて,よりよく理解することが可能となる。
 コンピュータ制御を取り扱う領域は,ともすると情報基礎領域であると考えられてしまいがちである。コンピュータ等の情報手段を扱う場面を情報基礎領域だけに限定してしまうことは,コンピュータに対する総合的な見方を育てるという視点からすると,好ましいこととはいえない。そこで,ここでは,あえて電気領域においてコンピュータ制御を取り上げ,制御端末としてLED(発光ダイオード)による簡単な電気回路を生徒が製作するとともに,インタフェースを介したパソコン制御の実習行うことにより,電気領域と情報基礎領域が相互に有機的関連をもって,総合的に学習活動が展開できるようにする。
(2)  総括目標
 LEDによる簡単な電気回路を製作し,BASIC言語で制御する活動を通して,プログラムの機能を理解し,基本的な情報処理の手順や方法を身に付けるとともに,制御するプログラムの作成を行うことができる。また,これらの活動を通して,コンピュータの利用分野としてコンピュータ制御があることを知る。
(3)  具体的目標
 関心・意欲・態度
(ア)  LEDを使った電気回路の製作に,意欲的に取り組もうとする。
(イ)  プログラムが果たしている役割について関心を持ち,製作した電気回路の制御に意欲的に取り組もうとする。
 創意工夫
 いろいろな命令語を組み合わせて,製作した電気回路の点灯パターンを考案するとともに,考案したパターンを制御プログラムに表現しようとする。
 技能
(ア)  LEDを使った電気回路を製作できる。
(イ)  コンピュータを操作して,製作した電気回路を制御するプログラムを作成できるとともに,制御プログラムを実行してLEDを制御することができる。
 知識・理解
(ア)  コンピュータの利用分野として,コンピュータ制御があることを知る。
(イ)  制御に必要な機器の機能やBASIC言語の役割を知るとともに,情報処理の手順や方法を理解する。
(4)  指導計画(5時間取り扱い)
第1時  実験概要 ……………… 1時間
第2時  制御実習ボードの設計及び制御の仕組み ……………… 1時間
第3時  制御実習ボードの製作 ……………… 1時間
第4時  制御実習 ……………… 1時間
第5時  実験のまとめ ……………… 1時間
(5)  授業の実際<4/5時>
 目標
(ア)  自分の意図や目的に応じて,制御パターンを工夫することができる。 (創意工夫)
(イ)  コンピュータを操作して,製作した電気回路を制御するプログラムを作成できるとともに,制御プログラムを実行してLEDを制御することができる。 (技能)
 本時に至るまでの経過
 今回の制御実習ボードの製作について,生徒に概要を伝えると,興味を示す反面,「面倒そう」「難しそう」という消極的な反応が見られた。これは,生徒が「制御」という事柄に馴染みがなかったり,この言葉が持つ堅いイメージを感じ取ったりしたものと思われる。しかし,試作品を提示したり製作資料を解説したりしたところ,生徒は制御という題材が意外と身近なものであることに気付き,製作段階に入ってからは,非常に意欲的に取り組み,約1時間で制御実習ボードを完成させることができた。
 生徒が製作した制御実習ボードは次のとおりである。
(ア)  抵抗ボード
 LEDに流れる電流を制限するために,それぞれのLEDに対して1KΩ程度の抵抗を直列に入れる必要がある。LEDと抵抗を同一の基板に半田付けしてしまうと,制御実習ボードがコンパクトで使いやすいが,電気回路が複雑になって製作に時間がかかるうえに,汎用性がなくなるという欠点がある。そこで,抵抗部分だけを分離して製作し,制御実習ボードとはみの虫クリップで接続することにした。
(イ)  ルーレットボード
 四角の基板上に8個のLEDを円形に配置する。
(ウ)  フラッシャーボード
 四角の基板上に8個のLEDを横一列に配置する。
写真20 実習ボードの製作に取り組む生徒 写真21 製作したボードの回路チェック
写真22 抵抗ボード 写真23 「ルーレット」 写真24 「フラッシャー」
 資料・準備
 システムディスク(MS−DOS,FBASICを含む。),学習シート,制御実習ボード,インタフェース,ビデオコンバータ,ビデオプロジェクタ,レイアウト用紙
 展開
 授業の様子
 制御の学習に入る時点では,情報基礎を履修している生徒が24人中9人であったため,プログラムに関する指導には重点を置かないで,教師があらかじめ用意したサンプルプログラムを提示して,とりあえず制御実習ボードを制御するための基本的な要素だけを把握させることにした。
 はじめにサンプルプログラムを実行して,機器が正常に動作しているかどうかを確認をした。その後,「ルーレット」班はサンプルプログラムを改良して,新しい命令語を使ったり,プログラムの制御構造を変えたりして,ルーレットとしての機能の追加・変更を行った。一方,「フラッシャー」班は独自に考案した点灯パターンをいくつかレイアウト用紙(図20)に書き込み,時間の経過にともなって点灯パターンが変化するように制御方法を工夫した。
写真25 「ルーレット」班 写真26 「フラッシャー」班
 生徒の感想
 授業後に実施したアンケートから,生徒の主な感想を次に示す。
  •  細かい半田付けは難しかったが,やりがいがあった。
  •  自分でも納得できるフラッシャーのパターンが考えられた。
  •  もっと複雑なものを作ってみたい。
  •  自分で作ったものがコンピュータで制御できて,うれしかった。
  •  プログラムをすべて自分で組んで動かしてみたい。
  •  制御する電気回路を自分の考えで作れることを知った。
 考察
 製作した制御実習ボードをコンピュータで制御する学習を行い,情報手段としてのコンピュータの特徴を新たな側面から理解した。また,LEDの点灯パターンのアイデアを制御プログラムに表現し,考えたとおりにLEDを点灯させることでアイデアを実現した。学習活動におけるこのような成果は,情報の創造,伝達能力の育成につながる。
 今回の「制御」に関する授業がすべて終了した後に,生徒の興味・関心が予想以上に高かったこともあり,半ば生徒の熱意に押された形で,さらに「制御」を2時間延長して,もう一つ自由に制御実習ボードを作ることにした。教師側で用意した部品の中から選んで制御実習ボードを組み立てたが,24個のLEDを駆動する回路を作ったり,7セグメントとLEDと組み合わせた回路を作ったりする生徒もいた。
 今回の取り組みでは,電気領域で制御を取り上げ,コンピュータの利用分野の一例として授業を構想した。情報活用能力を育成するための視点のうち,「@ 情報科学の基礎及び情報手段の特徴の理解」だけでなく,特に「A 情報の創造,伝達」の能力の育成が図られた。

図20 生徒が作成したパターンレイアウト

 制御の学習は,今回のように電気領域の中で「リレーの制御」として取り上げたりすることもできるし,機械領域で「モータの回転制御」,「動く模型の制御」として取り上げることもできる。具体的に何を題材にするかは,学校の実状や生徒の実態に合わせて選ぶことになる。いずれの場合でも,今回の制御の学習における生徒の反応から判断して,興味を持って意欲的に取り組むことが予想される題材であり,今後も大いに取り入れて行きたい内容である。


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