2 「電子サイコロを作ろう」(第3学年 情報基礎)

(1)  題材について
 第3学年の情報基礎領域では,市販のアプリケーションソフトウェアを使って,図形処理,文書作成,表計算,それにBASICによるプログラム作成を実施している。
 最近のアプリケーションソフトウェアは,機能が豊富であるとともに操作性に優れており,非常に使いやすくできている。そのため,生徒はマニュアルをさはど必要とせずに操作ができて,学習課題にすぐに取り組めるという利点がある。指導する側としても,たくさんの予備知識を逐一説明する手間が省け,指導内容そのものに十分な時間をかけることができる。
 これに対して,プログラムの作成については,いくつかの命令語を覚える,使い方を知る,命令語を組み合わせてプログラムを作る,そしてそれを実行するという一連の作業的学習となる。生徒はこのような形態の学習の経験がなく,プログラムを作るのも初めてである。そのため,学習の流れや意味がわからないままにコンピュータを操作することになりがちであり,アプリケーションソフトウェアを使うのに比べて,プログラムの作成はむずかしいものだと受け取られてしまうことが予想される。また,便利な市販のソフトウェアを使ったはうが楽であるという印象を与えてしまうおそれもある。
 そこで,プログラム作成の意義をより明確に把握させられるように,はじめはグラフィックや簡単なゲームのサンプルプログラムを指導者側が用意しておき,生徒が自分で入力したプログラムを実行して動きを確認させるようにしている。さらに,生徒がそれらのプログラムに少しずつ改良を加えて実行する過程を通して,プログラム作成によってコンピュータ上で自分の考えを実現できるのだという自信をできるだけ早い段階で持つことができるように配慮している。
 次の段階としては,プログラムに用いるより高度な命令語を知ったり,分岐,反復の基本的な情報処理の手順を理解したりする学習が考えられる。こうした学習は,実際的な題材をもとにして具体的に進めると,命令語や手順の意味がよくわかり効果的である。
 このような題材の一つとして,コンピュータによる制御がある。コンピュータによる制御では,コンピュータの外側に信号を取り出して,制御端末をプログラムで操作することが学習内容となる。コンピュータ制御とプログラム作成を結び付けて学習させることによって,プログラム作成の意義をさらに深く把握させられるととともに,コンピュータの利用分野を広く理解させることができる。
 ここで取り上げるのは,LED(発光ダイオード)をサイコロの日のように並べて,1の目から6の目までのパターンを点灯させる制御学習であり,点灯のパターンを考えさせたり,LEDが点灯する仕組みを調べさせたりしながら,プログラムの作成について学習させたい。
 この学習を行う前にアンケート調査を行ったところ,コンピュータ制御という言葉を知っていると答えた生徒は数人であり,どこに利用されているかについては,カーナビゲーション,クーラー等の電気製品,銀行のオンラインシステムなどと答えている。
(2)  総括目標
 LEDで構成した電子サイコロをBASICで制御する活動を通して,プログラムの機能を理解し,基本的な情報処理の手順や手法を身に付けるとともに,制御するプログラムの作成を行うことができる。
(3)  具体的目標
 関心・意欲・態度
 プログラムが果たしている役割について関心を持ち,コンピュータによる電子サイコロの制御に意欲的に取り組もうとする。
 創意工夫
 いろいろな命令語を組み合わせて,電子サイコロの目の表示法を考案するとともに,サンプルプログラムをもとに,自分で考案した日の表示法を制御プログラムに表現しようとする。
 技能
 コンピュータを操作して,電子サイコロを制御するプログラムを作成できるとともに,制御プログラムを実行して電子サイコロの目を表示できる。
 知識・理解
 制御に必要な機器の機能やBASIC言語の役割を知るとともに,情報処理の手順や方法を知る。
(4)  指導計画(10時間取り扱い)
第一次 プログラムの入力と実行 ……………… 3時間
第二次 電子サイコロの制御 ……………… 5時間
第1時 コンピュータ制御の意味
第2時 制御実習ボードのしくみ
第3時 電子サイコロの点灯
第4時 電子サイコロの連続点灯
第5時 電子サイコロの応用
第三次 プログラムの発表会・まとめ ……………… 2時間
(5)  授業の実際(第二次)<3/5時>
 目標
(ア)   プログラムの製作に意欲的に取り組み,コンピュータを使って電子サイコロの制御に意欲的に取り組もうとする。 (関心・意欲・態度)
(イ)  サイコロの目を表示する制御プログラムを作成できるとともに,さまざまな情報を活用しながらプログラムを修正したり改良したりすることができる。 (技能)
 資料・準備
 システムディスク(MS−DOS,BASIC98を含む。),インタフェース,制御実習ボード,各自の保存用フロッピーディスク,学習シート(掲示用),学習プリント
 展開
 授業の様子
 プログラムの入力,保存は各班のコンピュータで行い,プログラムの呼び出し,実行はインタフェースと制御実習ボードを接続してあるコンピュータで行うようにした。
 生徒は,本時の課題を把握した後で,LEDの番号とサイコロの目の関係を確認した。機器の操作については,第一次で何度か行っているので,とまどうことなく協力して進めることができた。
 1から6までのいずれかの目を点灯させるプログラムは,前時に使用した学習プリントの記述,ホワイトボードに掲示した学習シート(写真11)を参考に作成した。
 LEDの点灯パターンを工夫する場面では,まず学習プリントに点灯パターンを描き,制御番号を計算してプログラムを修正して実行した。学習プリント(図10)に描いたパターンどおりにLEDが点灯することに,たいへん感激した様子であった。実習の進度が速い班は,さらにいろいろな点灯パターンを考えた。

写真10 授業の様子 写真11 提出用学習シート
写真12 プログラムの作成 写真13 学習プリントへの記入

図10 第2時で使用した学習プリント




図11 本時で使用した学習プリント
 考察
 授業後の感想では,次のような意見が多く見られた。
@  コンピュータはいろいろなことに使えることがわかった。
A  コンピュータ本体と制御実習ボードを仲立ちしているインタフェースは,すごい働きをしている。
B  簡単なプログラムでも応用性があることがわかった。
C  決められた学習ではなく,自由にプログラムが作れるのがよい。
D  自分のプログラムがきちんとボードに届いた。
E  自分でこのようなボードを作ってみたい。
F  今度は違ったもの(ルーレットのようなもの)をやってみたい。
G  LEDの数をもっと増やせば,さまざまなパターンができる。

 @Aの感想については,授業を実施する前に,コンピュータ制御という言葉の意味を理解している生徒が数人しかいなかったことを考慮すると,より多くの生徒がコンピュータの利用分野を新たに認識したということがわかり,単なる知識としてでなく,コンピュータ制御を実際に体験したことに大きな意義があったと考えられる。コンピュータの利用分野を知ることを今回の主な目標としてはいなかったが,利用分野の一つにコンピュータ制御があることを具体的に理解した。
 BCは,プログラム中のはんの一部分を変更するだけで,制御実習ボードのLEDの点灯バターンがまったく違ってしまうことに対する感想である。グラフィックに関するコンピュータ実習において,命令語のパラメータを変えるだけで色や大きさが変化することを経験しており,その経験から得られた確信が,制御においてさらに強化されていることがわかる。
 Dは,生徒のきわめて率直な感想である。特定のLEDを点灯させようとする「意志」が,コンピュータを介して制御実習ボードに伝えられたのだという素直な驚きと感動を表現している。生徒のこのような感動を大切にしてさらに高めさせていきたい。
 EFGは,今回の授業からさらに発展して,自主的に今後の制御学習に取り組もうとする意欲の表れである。これまでのコンピュータ学習がやや受け身的な学習であったのに対して,制御を取り入れたことによって,進んで課題を探し実践していこうとする姿勢に変わってきている。
 いろいろな点灯パターンを考える場面では,学習プリントを手がかりにして,試行錯誤しながらプログラムを作成した。また,友達が作ったプログラムを参考にして,良い部分を自分のプログラムの中に取り入れた(視点B 情報の判断,選択)。
 これまでの情報基礎領域の学習では,アプリケーションソフトウェアの利用がほとんどであった。そのため生徒は,コンピュータはソフトウェアを入れて活用するだけのものという感じを持っていた。今回の制御の授業では,各自が作ったプログラムの効力が,インタフェースを介して,コンピュータの外に形になって表れることを体験した。このことがきっかけとなって,生徒は学習活動の中でいろいろな情報を活用し,課題に積極的に取り組むようになった(視点C 情報の整理,処理)。


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