第4章 情報活用能力を育成する理科実験指導の実際

T 「音の性質」(中学校第1学年)

1 単元の目標

(1) 単元目標
 音に関する身の回りの現象についての観察,実験を通して,音は物体の振動によって生じ,空気中を波として伝わること,音の大小と高低は発音体の振動の振幅と振動数にそれぞれ関係することなどを調べ,興味・関心をもって探究する活動を通して,音の性質についての見方や考え方を養う。
(2) 具体的目標
[自然事象への関心・意欲・態度]
   発音体が振動するときの音の発生の様子や音の波形を観察することに興味・関心を持ち,音の性質を調べようとする。
 観察,実験に適した発音体を探したり,身近な日用品を利用して発音体を意欲的に作ろうとする。
[科学的な思考]
   音の性質を調べる方法を考えることができる。
 音の大きさや高さを発音体の振幅,振動数と関連付けて考えることができる。
[観察・実験の技能・表現]
   音の高さや大きさが発音体の振動の様子とどのように関係しているかを比較しながら調べることができる。
 身近にある発音体から音が発生したり,空気中を伝わる様子について,事実に基づいて説明することができる。
[自然事象についての知識・理解]
   音の高さと大きさは発音体の振動数と振幅に関係することを理解する。
 音は空気や水など物質を伝わることを理解する。
 音は波となって伝わっていくことを理解する。

2 単元について

 生徒は,小学校第3学年で「もののふるえと音」「音のつたわり」という学習をしてきており,日常生活の中でも,多くの音を耳にしてはいる。しかし,昔の大小や高低については,音色の多様さとあいまって,明確に識別されていないのが現状である。
 中学校では,身の回りの物理現象の一例として,観察,実験を通して音を科学的にとらえさせることをねらっている。そこで,生徒が身近なものを発音体として音を出したり,楽器を作って鳴らしたり,音の大小や高低を調べたりすることによって,興味・関心をもって探究活動がでさるようにすることとした。
 音の高低や大小を波形として視覚的にとらえる探究活動を通して,聞こえる音の違いを振動数や振幅と関連付けて理解できる。
 本単元では,音の波動性,高さ,大きさ,伝播の媒体について,生活上の知識を準定量的に調べながら整理し一般化することをねらいとしている。

3 指導計画(5時間扱い)

  第一次  音の高さと大きさ  ………  4時間
第二次  音の伝わり方  ………  1時間

4 授業の実際(第一次)<3/4時〜4/4時>

(1) 目標
 発音体の種類や振動の仕方を違わせたりして,発生した音の波形を比較観察し,音の大きさや高さを発音体の振幅,振動数と関連付けながら,興味・関心をもって意欲的に探究するようにする。
(2) 情報活用能力と評価
 本時では,コンピュータ及び実験計測器,マイクを使って,グループで随時波形を観察しながら実験を進めることによって,興味・関心を高める学習活動となるように構成した。コンピュータによる実験計測は,通常見ることのできない振幅や振動数を視覚的にとらえさせることができて,生徒の直接経験をより鮮明に具体的なものとして印象付けるのに役立つ。
 情報の判断,選択と評価
 音の波形は一般に複雑な様相を呈しており,そこから振幅や振動数という概念を抽出することは中学校段階の生徒にはかなり高度な学習である。しかしながら,音の波形をリアルタイムで観察できることに,生徒は興味・関心を持つものと思われる。したがって,一人一人の生徒が波形のどの部分に着目しているか生徒の行動などからとらえ,画面に表示される波形のどの部分が音の性質を調べるのに有用であるかを主体的に判断できるように,適切な助言をして学習活動を支援していくことが必要である。
 画面に表示された波形を比較検討しながら,音の性質を探究するのに適当な比較的単純な波形となる発音体を,生徒が主体的に選び出すことが重要である。教師は,生徒がそれぞれの発音体の波形を比べながら振幅や振動数を考察する活動を観察し,生徒の意欲の高まりを行動を通して読み取るようにする。
 情報の整理,処理と評価
 音の大小,高低を比較・検討するのに適した波形データをフロッピーディスクに保存できるようにソフトウェアを工夫している。探究活動の結果,どの波形を保存しようとするか生徒の行動を十分に観察しながら,採集した波形を適切に整理したりする活動を支援することが大切である。
 採集した波形を描き写すためのプリント等を用意しておいて,採集した波形を音の大小,高低の部類ごとに書き込んだり,プリンタに出力した波形を切り取ってノートに貼ったりして,実験データを記録・保存する活動において,生徒が自らの発想を生かして活動ができるように支援することが大切である。こうして表現されたものから,それぞれの生徒がどのように「音の性質」に取り組んだかを読み取ることができる。
 情報の創造,伝達と評価
 音の大小,高低の特徴について,各班で話合いをしながら予想を立てさせる。波の形をホワイトボードに描いて表現する活動を行ったりして,生徒一人一人の既存の知識をもとに話し合わせ,各個人の意見がどのように統合されていくのかを十分に観察しながら,グループ内外での話し合いの中で,特定の生徒の意見だけが班の意見とならないように配慮したり,班を構成する生徒たちが活発に話し合うように支援する。
 まとめの段階では,各班ごとに音の大小や高低を探究した結果について,採集した波形を大型スクリーン等に提示したり,発音体を実際に鳴らして実演したりして,多面的な表現活動が行えるよう支援する。
(3) 展  開

(4) 生徒の反応
 学習場面における生徒の反応
 学習プリントの感想欄に見る生徒の反応
  •  普通の授業よりわかりやすかった。
  •  コンピュータでこんなことができるのかと感心した。
  •  いろいろな音の違いがわかった。
  •  わかりやすく簡単にできた。
  •  今度は違った楽器の波形も調べたい。
  •  グラフに現れたのでよくわかった。
  •  すぐに画面に現れるのでわかりやすかった。
  •  興味を持って最後まできちんと取り組めた。
  •  自分から進んで実験ができてうれしい。

写真7 授業風景
授業前のアンケート
38人調べ(複数回答)
音はどんなときにでますか。
叩いたとき ……… 21人
ものが振動したとき ……… 14人
こすったとき ……… 5人
わからない ……… 7人
音にはどんな違いがありますか。
高さ ……… 34人
大きさ ……… 32人
長さ ……… 13人
響き方 ……… 9人
わからない ……… 2人
音の高さは何によって変わりますか。
震え方 ……… 3人
わからない ……… 35人
音の大きさは何によって変わりますか。
叩き方,鳴らし方 ……… 16人
わからない ……… 22人
授業後のアンケート
38人調べ(複数回答)
音の高さは何によって変わりますか。
振動数の大きさ ……… 36人
波の数 ……… 1人
わからない ……… 1人
音の大きさは何によって変わりますか。
振幅の大きさ ……… 36人
波の高さ ……… 1人
わからない ……… 1人
何種類の波形を観察しましたか。
5種類まで ……… 0人
6〜10種類 ……… 4人
11〜15種類 ……… 4人
16種類以上 ……… 30人
(5) 考察
 演示実験の段階で,音さの波形を一人一人に画面転送したことにより,「すごい。」という驚きと,「早く自分でもやってみたい。」という意欲を持たせることができた。授業の早期には,コンピュータでの実験操作そのものの戸惑いがあったが,それもすぐに慣れ,自発的にいろいろな発音体で実験を試みた。
 普段聞き慣れた音というものを,波形を通して視覚でとらえることができたので,振動数や振幅という視点から理解することができた。
 記録された音の波形をすぐに呼び出して,それぞれの昔の波形を一つずつ確認しながら波形の比較ができたので,興味・関心を持続して学習が進められた。
 自分たちで好きな音を採集し,自由にしかも自分たちのペースで実験が進められたので,生徒の主体的な学習の場が形成された。
 音の大小や高低は,感覚的にはわかってはいたが,発音体からでる音の波形を観察することにより振幅や振動数の違いとして,はっきりととらえられた。また,容易に実験ができ,いろいろな音を比較できたことは,音の性質の理解を深めることにつながった。
(6) 情報活用能力の評価の実際
 音の波形から振幅や振動数という概念を抽出することは,中学校段階の生徒にはかなり高度な学習であると考えていたが,コンピュータを活用したことにより,音を聴覚だけでなく視覚でもとらえられ,学習意欲を喚起することができた。音の波形をリアルタイムで観察できることに驚きをもった生徒は多い。学習場面での生徒の反応をみると,発音体を適切に選んだり,波形のどの部分に着目したりすればよいかを,ディスプレイ上の波形からすぐに判断していることがわかる。
 発音体としては,ピアニカ,リコーダ,音さを使ったが,リアルタイムで波形が表示されるので,どの発音体がよいかの選択情報が視覚的にしかも瞬時に提供され,他に頼ることなく主体的に選び出すことができた。
 フロッピーディスクに波形を保存できるようにソフトウェアが工夫されており,生徒はいつでも,整理しておいた波形を随時呼び出すことができた。
 学習活動場面における生徒の反応に現れているように,以前に整理しておいた波形を呼び出して,二つの波形を簡単に比較することができて,それらの違いを識別する作業を能率よく行えたことが読み取れる。この比較が容易にできたことは,生徒が主体的に学習活動に取り組むことに大きく寄与したものと思われる。
 前時に製作した自作楽器を発音体として積極的に利用するよううながして,一人一人の生徒が自分独自の実験に取り組んでいることを強く認識させるようにした。コンピュータを使った実験は今回が初めてであったが,「今日の授業に満足した。」と言う生徒が9割以上にのぼった。

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