V研究の内容

2研究主題にかかわる意識・実態調査

(1)対象

県内中学校国語科担当教員及び生徒(教員・・・61人,男25人,女36人,生徒…1,027人,1年生345人,2年年343人,3年生339人,男500人,女527人)

(2)実施時期

平成5年1月

(3)意識・実態調査の分析と考察

ア教師対象

(ア)生徒は,どういうときに,「小説」の学習におもしろさを感じると思いますか。(二つまで回答可)

全体では,aが65.6%で多く,次いで,dが45.9%,Ceがともに44.3%となっている。小説の筋のおもしろさは,小説そのものに内在するものであり,登場人物の心情を読み取ることは,教師の側の指導の在り方とかかわる項目である。Cdeの間はほとんど違いがない。Cは44.3%であるが,男女の比率で見ると,男が1に対して女は8の割合で,男女の間で意識の違いが著しい。
図1教師の意識 生徒が.小説の学習におもしろさを感じるとき 選択肢の内容
  • a小説の筋がおもしろいとき
  • b登場人物の生きた時代を知ったとき
  • d登場人物の心情が読み取れたとき
  • d想像したり,登場人物になりきったりできるとき
  • e登場人物や作者のものの見方や生き方がわかったとき
  • fその他
図1教師の意識・実態調査ア「生徒が.小説の学習におもしろさを感じるとき」

なお,研修講座に参加した高等学校の教員38人にも同じ調査をしたので,多い順に挙げると,aは76.3%,dは52.6%,Cは47.4%,eは34.2%,その他は0%であった。割合に違いはあるものの中学校と高等学枚とも同じ傾向である。

(イ)生徒が意欲をもって,「小説」の授業に取り組めるように,現在,特に工夫していることは何ですか。(二つまで回答可)

全体では,Cが60.6%,bが59%.dが49.2%となっている。授業の進め方としては, 学習課題,学習プリント・ヒントカード,生徒個人の感受性や共感を大事にするというこ とであり,生徒が作った学習課題や学習プリント・ヒントカードを用いて,生徒が取り組 みやすいような工夫をこらしていることが分かる。aの項目の,個々の生徒の実態に応じ てめあてを何段階かに分けるような個人に対応した授業の工夫はまだ少ない。また,ab を男女の比率で見ると,男が1に対して女が2の割合で,男より女のほうが学習課題,学 習プリント・ヒントカードを多く用いて指導していることが分かる。

図2教師の意識(意欲を持って取り組めるように現在特に工夫していること 選択肢の内容
  • a生徒個人個人によって理解の度合いが異なるので,読み取りのめあてを何段階かに分けている。
  • b生徒の感想や疑問なとをもとに学習課題を作らせ,その学習課題を中心に授業を進めている。
  • c生徒が授業に積極的に取り組めるように,学習プリント、ヒントカードなどを用意している。
  • d生徒個人個人がもつ感受性や共感を大事にするように心掛けている。
  • e机間巡視などをして励ましたり,よい点を認めたり、ほめたりするように心掛けている。
  • fその他
図2教師の意識・実態調査イ「意欲をもって,取り組めるように,現在,特に工夫していること」

なお,高等学校の教員は,多い順に挙げると,dは63.2%,eは50%,Cは47.4%,a bはそれぞれ10.5%、fは5%であった。中学枚では学習プリント・ヒントカード,学習課題に重点をおいているが,高等学枚では感受性や共感を大事にしたり,励ましや賞賛に重点をおいたりしている。

(ウ)あなたの「小説」の授業は,主にどんな指導過程をとっていますか。(一つ回答)

「読み」の指導過程についてはいろいろな試みがなされ,その積み重ねが蓄積されていると思われるので,調査項目の中に加えた。全体では,bが39.3%,aが36.1%,Cが19.7%,eが3.3%,fが1.6%,dが0%となっている。abcが指導過程の大部分であり,その中でもabが指導過程の中で大きな割合を占めていることが分かる。aからbへと指導過程は変化しているように思われる。

図3教師の意識(小説の主な指導内容) 選択肢の内容
  • a作品を通読し、初発の感想を書いた後、場面ごとに詳しく読み、最後に主題を考える。
  • b作品を通読し、学習課題に基づいて読みを深め、最後に主題について考える。
  • c第1次の読み(全文の読みと形象の取りたて、読後の印象から問題意識へ、場面の設定と見出しつけ、事件のあらましと梗概の要約)、
    第2の読み(部分の読みと視点の確認、人物と状況との関係の図式化、主人公の心理と行動の分析、やまばについての発問と応答)
    第3の読み(感情を移入した全文の読み、作品の主題とその方向づけ、比べ読みと主人公の典型化、感想文による一般化)
  • d「だんどり」で学習者の読みのかまえを作り、つづいて、「とおしよみ」においては、視点を媒介として形象の相関関係の展開過程に沿って、表象化<−−>概念化することにより、切実な文芸体験を形成させ、さらに、「まとめよみ」では、主な人物の性格をつかみ、主題・思想・象徴をとらえ、典型を目指す読みを進めることによって、文芸体験を思想化させる。
  • e一文一文の関係を分析し、その意味を結合し、つづいて、次の一文との関係を分析・総合し、さらに分析・総合を繰り返しつつ、分群の総合、段落の総合、全文章の総合を行なう。
  • fその他
図3教師の意識・実態調査ウ「小説の主な指導過程」

なお,高等学校の教員はaが47.4%,bが28.9%,Cが18.4%,eが5.2%となっている。a b cが指導過程の大部分で中学校と同じ傾向である。ただし,bよりaが主流のように思われる。中学校ではaよりもbのほうが多くなりつつあると考えられる。

イ生徒対象

(ア)あなたは,どんなときに「小説」の学習がおもしろいと思いますか。(二つまで回答可)

教師対象の調査項目のアと同じ調査である。全体的には,生徒も教師と同じようにaが多く61.6%であり,続いて,dが38.6%,Cが38.2%、eが24.4%,bが18%,fが2.2%となっている。教師対象の調査と比較してみると,bは教師が0%に対し,生徒は18%,eは教師が44.3%に対し,生徒は24.4%である。教師の側の「読み」のめあて意識と生徒の例の小説学習への興味の多様さが違いとなって表れていると考えられる。生徒の小説学習に対するおもしろさは,教師が考えているより多様であると考えられる。学年別で見るとbdeで学年間に少し変化がある。dの登場人物になりきるは1年生でやや多く,eの登場人物や作者のものの見方や生き方がわかったときは,学年が上がるにつれて少し多くなり,発達段階と相関していると考えられる。男女別で見ると,大きな違いはないものの,選択肢によって,6.3%〜15.3%の違いがある。

なお,小学枚の6年生16人と高等学校の1年生と3年生106人にもほぼ同様の調査をしたので,結果を挙げると次のとおりである。小学校の子供は,aが54.3%、dが28.6%,bcfはともに25.7%である。高等学校の生徒は,aが71.7%,Cが29.2%,dが25.5%,eが24.5%,bが21.7%である。各校種ともaが一番多い。

選択肢の内容
  • a 小説の筋がおもしろいとき
  • b 登場人物の生きた時代を知ったとき
  • c 登場人物の心情が読み取れたとき
  • d 想像したり、登場人物になりきったりできるとき
  • e 登場人物や作者のものの見方や生き方がわかったとき
  • f その他
図4生徒の意識・実態調査 ア「どんな時に、小説の学習がおもしろいと感じるか。」
(イ)あなたが,「小説」の学習に意欲を持って取り組むのは,どんなときですか。(三つまで回答可)

教師の意識・実態調査のイを生徒自身の立場から調査したのがこの項目である。全体的にみて,多い順に,aが62.1%,Cが47.8%,bが43.1%,eが26.4%,dが24%,fが4.8%である。教師対象の調査との違いを見てみると,aは教師が8.2%で,その差は53.9%,dは教師が49.2%でその差は25.2%である。abともかなり違うが,特にaは教師と生徒の間で意識の違いが大きい。bcについては,生徒,教師とも半数近くの割合で,それほどの違いではない。学年別で見ると,abは他学年と比較すると1年生に多い。Cは2・3年生がわずかに多い。男女間に違いははとんど見られない。

選択肢の内容
  • a 小説の筋がおもしろいとき
  • b 登場人物の生きた時代を知ったとき
  • c 登場人物の心情が読み取れたとき
  • d 想像したり、登場人物になりきったりできるとき
  • e 登場人物や作者のものの見方や生き方がわかったとき
  • f その他
図4生徒の意識・実態調査 ア「どんな時に、小説の学習がおもしろいと感じるか。」

なお,小学校の子供は,bが57.1%,dが48.6%,aが31.4%,Cdがともに22.9%である。高等学枚の生徒で多いのは,「グループや個人で学習できるとき」が59.4%,「先生の説明がよく理解できたとき」が53.8%,「学習プリントが用意してあるとき」が39.6%「自分たちの学習課題で学習するとき」は27.4%である。現に,行われている各校種における授業の形態との関連はどうなのであろうか。児童生徒の願望なのだろうか。

(ウ)あなたは,「小説」の学習で,何を読み取れることが大事だと思いますか。(二つまで回答可)

全体でみると,Cが69.1%,aが37.5%,eが30.1%,dが24.4%,bが20.5%,fが0.9%で,Cが圧倒的に多い。主題よりも,登場人物の性格や心情を読み取ることを大事だと考えていることが分かる。学年別でみると,Cは学年が上がるにつれて割合が多くなる。bdは学年が上がるにつれて割合は低くなる。小説の学習で,教師の側の指導が浸透しているためと考えられる。男女別でみると,Caとも女子の方が男子よりやや多い割合で,男子より女子のほうが小説学習のめあてが明確であると考えられる。

選択肢の内容
  • a 小説の筋がおもしろいとき
  • b 登場人物の生きた時代を知ったとき
  • c 登場人物の心情が読み取れたとき
  • d 想像したり、登場人物になりきったりできるとき
  • e 登場人物や作者のものの見方や生き方がわかったとき
  • f その他
図4生徒の意識・実態調査 ア「どんな時に、小説の学習がおもしろいと感じるか。」

なお,高等学校の生徒は,Cが54.7%,bが48.1%,aが36.8%,「作者のものの見方や考え方を読み取ること」が34.9%である。cは,中学校と高等学校では14.4%の開きがあるものの,一番多い。


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